イタキス

xx_7
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半年ぐらいは我慢しようと決めていた。明確に取り決めた訳ではないのだけれど、大体あなたの誕生日くらいまで。初めて好きになった歳下の男の子を完全に舐めていた脳内お花畑の私は、わたしさえ我慢すれば何も起こらないだなんて本気で考えていたのだ。おてて繋いで遊び回るだけの日々を、半年間続けるなんて、本気で。

たった12日しか経っていないはずの今日、あなたの愚直な視線を間近で受け止めて焦った。ずっと好きだったあなたと手を繋いだことにもまだ実感が湧いていないのに、頭が処理できないまま階段だけ登っていく。可愛い後輩だと思っていたあなたが初めてちゃんと男の子に見えた。わたしは心臓がばくばくと音を立てて堪らなかったのだけれど、経験がないというあなたの方が随分平気そうで悔しい。もっと大人の余裕を見せ付けるつもりだったのに。だんだん息が辛くなってきて、でもまだ離すのは惜しいと思っていて。初めてではないなどと言っておきながら、あなたに下手くそだと思われていたらどうしようとあれからずっと悩んでいる。あなたが思うほど、私はこういったことに慣れていないから。

こうまでしておきながら未だ貴方のことを名前で呼べていないのは、ほんの少しの意地だ。意固地になっている自覚はある。でも、此方としてはまだふわふわと夢心地なのだ。あなたが私の好意を受け止めてくれたことすら妥協ではないかと疑っているほどに。例えば今日から名前で呼び合うことになったとして、私はきっと置いて行かれる。あなたが私ではない何かと付き合っているような気分になるのだろう。慣れない名前で呼ばれてはますます実感が湧かないまま日々を送ることになって、宙ぶらりんになったまま階段だけ駆け上がることになる。こんな稚拙な喩えが伝わっているのかも怪しいけれど、できればもう少しだけ、慣れ親しんだ「先輩」でいさせてほしいということです。先輩として、あなたと愛し合えているのだという実感が湧いたら、ようやっとあなたのことを名前で呼べるのだと思うのです。

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ただひとつ確かに言わせてほしいのが、あなたとの出来事を、嫌だと思ったことはまったくないということ。実際今日のお昼、最後に我慢できず口を寄せたのは私の方でした。だから貴方が反省や自己嫌悪の気持ちを少しでも抱いてしまっているのなら、大丈夫だよといつものように頭を撫でてあげたい。……自覚はまったくないのだけれど、わたしが先に入れたということにしておいても、良い。正直なことを言うと、前回初めての接吻をあなたと交わしたときから、少し期待していた節があったと思うんですよ。まだ早いと思いながら、心の片隅のどこかで。例えば昼間の公園だとかそういったところでは流石にやめてほしいのだけれど、まあなんだその、誰にも見られなければ、ね。でも私のことはどうでもいいが、初めてであるあなたが後から振り返ったとき「しなきゃ良かったな」なんて考えてしまうのではないかと不安になるばかりです。本当にわたしで良いのなら、こんなに光栄なことはないんだけれど。実際、指を絡めるだけでは、体温を求めるだけでは、満足できないようになってしまったから。

あなたの返信がどこか冷たい気がして、夜のわたしはずっと焦っていた。気の所為なのか、それとも「親しい友人に送る距離感」で私にも送ってくれているのか、はたまたバイトの疲れであんまり元気がないのか。あなたの言う通り私にはネガティブで神経質なところがある。周りの人間に相談するのも違うだろうと思って、帰り道が被っている同期を早々に撒いてあなたにメッセージを送った。

私の我儘で奈良にいるあなたと電波を繋いだのだけれど、後ろ向き思考でいるままの私にはあなたの第一声がいつもより暗く聞こえて、勝手に焦りながらどんどん口が滑っていく。今考えればただ眠かったのかなと思ってる、そんな中電話してしまってごめんね。喋っている間にあなたの普段の笑い声が聞こえて、ひどく安堵したのはここだけの話。あなたの笑顔と笑い声を、この世で一番好いているのは間違いなくわたしだ。

あなたと会う回数が、ひとつ減る。「会いたくないわけではなくて」と弁解してくれるあなたは優しい。友人を大切にするんだよ、なんて都合の良いときだけ出来た先輩みたいな言葉が独り歩き。きみが友人と楽しそうにしている様子は私も聞いていて嬉しいが、わたしとの時間を惜しんでほしいとも思ってしまっている。1日が100時間ぐらいあったらいいのにね。そのうち10時間ぐらいはせめて、一緒にいてくれたらいいのに。