よかった現場
6月に来日した Madeon が圧倒的に素晴らしかった。もともと好きだったが、これを観に行ったことで最も好きなアーティストの一人(個人的殿堂入り)になった。
非常にキャッチーかつ全体的に短く作られた曲たちがライヴではほぼノンストップに連続的に演奏され、さらに曲によっては大幅な拡張や他の曲をマッシュアップする等の仕掛けが施されているため満足感が非常に高い。音楽と完全に同期しつつきわめて激しく明滅する極彩色の映像が巨大な LED スクリーンに映し出され、それを背に終始一人で演奏し歌い客を煽る姿は神懸かり的に見えた。
あまりにも感動してしまい、東京公演を観た直後から Madeon のこと以外なにも考えられない状態になったので翌日の大阪公演に行くことを決めてしまったし、無論その選択は大正解だった。大阪公演では前方中央で堪能できたし、大雨だった天気が終演後外に出ると晴れていて奇跡すら感じた。
今回見たのは2019年リリースのアルバム Good Faith を中心としたセット (Good Faith Forever と名付けられている)であり、2023年中に最終公演があったためそのまま再演される可能性は低い。観ておいて本当によかった。
他にも素晴らしい現場はいくつもあったのだが、個人的にはこれが群を抜いて印象に残っている。
よかったアルバム
リリース日昇順です。
Cicada - Seeking the Sources of Streams
台湾の至宝たる室内楽グループの、アルバムとしてはたぶん7枚目。
「沢の源流を探して」というタイトル通り、登山の情景がテーマとなっていた前作の延長線上にある作品だ。前前作までの海洋シリーズから続く作風に大きな変化はなく、台湾の自然の美しさを爽やかな楽器演奏で描いている。表題曲がこれまでで最長の11分越えであるのを筆頭に曲数は少なめで長い曲は長く、長い曲好きとして大変ありがたい。
シドニーで観た現場もとても良く、ホール的な箱でなくライブハウスでの彼らも新鮮だった。
Hammock - Love in the Void
米テネシー州ナッシュヴィルのアンビエント・ポストロック職人二人組の12枚目のフルアルバム。
Hammock はまさに名工としか言いようがなく、いつも通りでいつも通りに素晴らしい。宝石の鉱脈のような作品たちの中でも、自分の好みとして Mysterim (2017) - Universalis (2018) - Silencia (2019) 三部作以来の強い輝きを今作からは感じた。
この曲の MV をみてほしい。互いに関係なさそうな映像が次々切り替わっていくのだが、音楽の力によってそれらが強固に結合され3分半しかないのにノーランやヴィルヌーヴの映画を観たときのような充実感がある。
Jakub Zytecki - Remind Me
ポーランドの凄腕ギタリスト(顔もいい)による 3rd アルバム。同国出身の元同居人に教えてもらったところによると、名前の発音はヤコブ・ジテツキだそう。
近年の曲で大きくフィーチャーされていたクリーントーン中心の穏やかな曲調と8弦の重いリフがこれまでになくシームレスに融合されており、そこに本人のこれまたソフトな歌声が重ねられ独特な世界観が立ち現れている。
ギターの達人が歌うとふにゃふにゃっていいよね。その道の巨星である Jeff Beck が本当に星になってしまったのも2023だったな。
Evan Marien - Elysian
Tigran Hamasyan バンドなどの仕事歴がある敏腕ベーシストのソロ作。
ものすごくマニアックな音楽オタクなんだけど、同時に陽キャを極めていて曲想はキャッチーというところが Jacob Collier あたりと被る。各パートの音色がまず非常に気持ちよく響くし、ジャストタイミングでクリーンヒットするキメが満載で聴いていて楽しい。
ドラムとのデュオという形態で演っていた現場も、和やかな雰囲気かつキマりまくっていて非常によかった。
LE SSERAFIM - UNFORGIVEN
多国籍 K-Pop グループの 1st アルバム。
2023 年になってから知ったけど、ロゴをはじめとしたデザイン、全体的に身長高めのメンバーが大きく動くダンスととにかく格好良い。"unforgiven", "antifragile", "inpurities" といった強めの英単語の曲名を冠した曲たちはどれも印象的で、繰り返し聞きたくなる。
席番号をアプリで入力しておくと会場で無線制御されて自動で色が変わったりするペンライト(すごく凝った造形で高い)を買って現場に行ってみたら、それがもたらす想像を大きく上回るシンクロ演出も含めて大変楽しめてよかった。大変凝った MV を見ても思うことで、同時期に登場した NewJeans もそうだけどバリバリに世界で売るぞという勢いを感じるわね。
「○○ をメタルにしてみた」「30 秒で ○○(メタルバンドまたはジャンル名)」シリーズを多く投稿しているギタリスト Nik Nocturnal 兄貴によるメタルアレンジも秀逸だった。
甲田まひる - 22
タイトル通り22歳のシンガーソングライターによるアルバム。
全曲の作詞作曲に加えアレンジにも全面的に参加しているようで、歌手以外にも舞台チェンソーマンでパワーちゃん役を演じるなど多才すぎてやばい。そしてかわいい。
得意とするジャズピアノ(若干16歳の時点で石若駿らとアルバムまで出しているのだから恐れ入る)も散りばめられつつ、フックが効いて印象に残る曲が満載のポップスの好盤になっており、素晴らしい。
年明け早々にアニメのエンディング曲をリリースするなど、勢いがある。今年はもっと広く知られた存在になると思います。
Nuclear Power Trio - Wet Ass Plutonium
核保有国首脳による超絶インストゥルメンタルバンドの初フルアルバム。
一目見ての出落ちっぷり、ネタ闇鍋状態のミュージックビデオ、インタビューのノリと終始ふざけているようにも見えるが曲と演奏がガチすぎて普通に格好良いと思ってしまう。
中の人たちはエクストリームメタル畑で名の知れた人たちらしくて、Donny の中身 Greg Burgess さんは鈴木メソッドとシンシナティ大学でクラシックギターを学んだ上でメタルに行った人である。Twitter では Donny の "executive assistant" と名乗っていて、「助手だけどボスの曲を弾いてみた」や「ボスにまたスマホ奪われて勝手に投稿された」という体で演奏動画をたまに上げていてウケる。
2022年のウクライナ侵攻後も Vlad P は変わらず続投、同国名が含まれる既存曲の MV を公開した上で「Make music, not war! 🌍✌️」を掲げていることは彼らなりの正義であるし、本物の男たちだと僕は思いましたよ。
挾間美帆 - Beyond Orbits
多人数ジャズアンサンブル作曲家による 4th アルバム。
中盤に配された組曲をはじめとして大曲志向がより推し進められており、大編成の音の壮大さと相まって素晴らしい。
現場ではジャケットの紫ドレスを完璧に着こなし堂々たる指揮をされていて、とても格好良かった。冠ラジオを始められたからなのか、トークも上手になられていた。
どの曲も細部まで緻密に作られているのだけど同時に体が動くパワーも感じるので、着席でなく立ちでも聴いてみたい気持ちがあります。
Steven Wilson - The Harmony Codex
英国の多忙音楽家ウィルソン大先生の6枚目のソロアルバム。
先行公開されていた数曲が普通に良いけどウンって感じねとやや距離を置いて見ていたのだけど、全編リリースされてみたら後半にことごとく自分の好みに完全合致な曲が連続しており、今作もまた大好きになってしまった。
一人で部屋で作った感触が前作とはまた違った形で漂っているようで、ソロ初期作の空気を再び感じる瞬間も多い。
今作でツアーしてたらどんな風になったのだろう。
The Rolling Stones - Hackney Diamonds
デビュー60年を越えた超超大御所、18年ぶりオリジナルアルバム。
ずっと渋くてかっこよかった Charlie Watts が2021年に星になってしまったが、それから2年後届けられた新譜は3人でもまだまだ転がり続けるぜという決意表明のようで力強い内容だった。物心つくずっと前からすでに伝説的存在なのに、今もしっかりかっこよくあり続けていてくれてありがとうという気持ち。
Mick Jagger が喋り方を誇張され真似されてそれをふつうの英語に翻訳するのにはワロタ。なんて器のデカい勲爵士(ナイト)なんだ。
あと通常版と Live Edition 同時リリース、これ他の人ももっとやってほしい。
Earthside - Let the Truth Speak
Hans Zimmer のごとき壮大さを提示してくる映画音楽的メタル、2枚目のフルアルバム。
傑作だった前作から早くも8年、今作も歌ものインストゥルメンタル混在かつシンガーは様々なゲストが曲ごとに代わる替わるという構成だが、とにかく音の荘厳さ宇宙的広大さを終始醸す内容で統一感がある。デカ過ぎんだろ。
このバンドのような寡作で宇宙的に壮大なメタルという枠に個人的に分類している他の存在に AtomA がいるのだけど、彼らも元気だろうかね?
Old Gods of Asgard - Rebirth: Greatest Hits
1970年代に活躍した伝説的メタルバンド Old Gods of Asgard のベストアルバム。……という体の、フィンランドの Remedy Entertainment 社によるゲーム内に登場する架空の同名バンドの曲を集めたアルバム。実在のバンド Poets of the Fall が作曲・演奏している。
Alan Wake (2010) での初登場から彼らの曲は演出上劇的な効果を生んでおりストーリー上も重要な存在だったが、Control (2019) では作中最も盛り上がる戦闘シーンでまさかの新曲が投下され、しかもそれが Remedy 作品の世界同士がつながっていることを示唆しており大変ブチ上げられた。
2023年の Alan Wake 2 で満を持して再登場、今回は PotF のメンバーが若き日の姿を実写で演じている上に、全編を通してますます重要な役回りを担っている。ゲーム前半では突如始まるミュージカルパートで度肝を抜き、ゲーム後半ではジジイの姿で演奏を始めると突如声が40歳くらい若返り全盛期の姿がスタンドよろしく背後に浮かび上がるという最高すぎる演出が炸裂していた。
それらの曲がこうして1枚のアルバムとしてまとまると、これまでに増して説得力が生まれる。
「移民の歌」すぎるリフが登場するなどオールドロックへのオマージュも随所にあるが、全体の印象としては当時風の音に寄せる意図はあまり感じず2000年代以降の洗練されたロックである PotF そのままの音を基礎としてより痛快なメタル要素を大盛りにして再実装したという感じであり、これが本当に素晴らしい。
よかった曲
今年もプレイリストに選びました。
毎年ちまちまやってたらなかなかの数になってきた。2022, 2021, 2020, 2019, 2018, 2017, 2016, 2015
これ経由で聴いたものを思い出せたりするのでなかなかよい。
雑感
新しい音楽を知り聴く機会が減ってきたが、それ自体はそれほど悪いことと思わない。が、良さの受容体を減らしたくはないわね。