大丈夫

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春の光のように暖かいあなたの笑顔に落ちる影を見落としていた、見て見ぬふりをしていたのも今日で終わり。

次の日好きな人に会うとなると人は面白いものだ。手に取る化粧水やヘアオイルの量が増えたり普段はしないストレッチなんかをしてみたり着ていく予定の服に付いた細かい毛玉を取ろうと試みたり、そんなんじゃ大して変わらないとわかっていながらも少しでも良い姿でいたいと思ってしまうらしい。だから昨日の夜、こっそりファッションショーを開いてみた。部屋に姿見がないので風呂上がりに余所行きの装いをする変人に見られないよう隠密に1階まで降りて見ると、思ってたのとちょっと違うかも?今までの自分にあまりない色だから不安になってきた。買う時の脳内シュミレーションでは完璧だったのに。だからこそ、先輩がかわいいと言ってくれて本当に嬉しくなったし安心した。服の系統があまりにも違うのは考えものだけど。


電気を消した玄関は暗くて、だからなのかもしれない。あなたの輪郭と陰影の境目がちょっと曖昧になっていたあの時、あなたの口から出た「怖い」という言葉。甚だ見当違いなカミングアウトをした僕に続いてあなたの本心を聞けた気がした。震えながらも僕のために言葉を紡いでくれるあなたの話を聞いている間はどうすれば良いかわからなくて、ただ抱きしめて頭を撫でてあげることしか出来なかった。「先輩は何も悪くない」と言うのも救いにならないようで、何となく違う気がして、「よく頑張りました」とかいう謎の一言がこぼれた。あなたがよく公園で過ごしているのも玄関に住んでいるのも休みの日に外に出ないと気が狂ってしまいそうになるのも、人を部屋に入れないことも。染み付いた習慣ってのもあるだろうけど深層心理でまだ傷が残っているのだろうと思わずにはいられない。あなたの親友さんが「やっと大事にしてくれる人と会えたんだね」と言ったこともそれだったのか。今まで話の随所に散りばめられていたピースがどんどんハマっていく感覚。だったら僕がこぼした言葉は正解だったのかもしれない。

話してくれて本当にありがとうございます。これからのこと、今までのこと、これからのこと。話してくれなかったら、きっとどこかで同じ轍を踏んでいたかもしれません。どこかというか、近々。頑なに人を家に入れないのは何だろうねぇとふわふわ思っていた自分を助走つけて殴りたい。多分僕に話してくれたこともほんのひと欠片なのだろう。よくぞここまで抱えて来れましたね。あなたは強い人だ。今までのは嫌じゃなかったよと言ってくれるし、僕としてもそれを信じていたいけれど、怖さが1滴もなかったかといえばそうではないと思う。辛い思いを少しでもさせてしまっていたのならごめんなさい。前にも書いたっけか、最優先は先輩の心と身体だから。もっと我儘でいてください。話して少し楽になったのなら有難い。力になろう、僕が傍にいます。心の傷が癒えるのにはきっと時間がかかるだろうし、準備はゆっくりでいいです。そんなすぐ手放すようなことはしません。今はこんな気持ちです。

灯りが付いて影もくっきり見えるようになったあなたの顔はとても綺麗、そういう印象を受けた。