5:30、アラームの一音目で目が覚める。こんなところまでイントロ強くなくていいんだよ。寝た気がしない、まだ寝たいと言う意識と身体を無視して順調に覚醒へと向かう朝と脳に嫌気が差すが、そんな強大なものに勝てるはずもなく顔を洗う。500円玉とかさくらんぼ大とか個人のさじ加減だろと文句を言いつつ申し訳程度のスキンケアを済ませると親が起きてきた。盛大に寝坊かましてくれよ。さすれば俺だって気が楽になるのに。自分より遅く寝ては夜中何度も目を覚ましているのに平然と同じ時間に活動を始める彼らを少し恨めしく思った。この人達が活動を始めなければ僕も動かなくていいのではなかろうか。
朝ごはんを食べたり歯を磨いたりする横目で画面を流れるパステルカラーたちの呟き。何で2時間前にまだ起きてるんだ。ちっちゃな画面で好きな人の世界の欠片を拾い集めていると、つい間違えて「人権は人間以外にもある」とか言ってるニンゲンノカケラも拾ってしまった。どうやらこの世界には山羊の頭をしたニンゲンが本当にいるらしい。ヘロドトスってすごいな。こんなことを考えてるうちにタイムリミットが残り20分になっていた。今日も100%の身支度はできないまま家を出ることになりそうだ。あなたに会うというのに。
今日はあなたと会えるらしい。そんな事を思うと電車内でも授業中でもつい顔を綻ばせてしまう。「一山越えてあなたに」なんて言葉が現実になる人もなかなかいないのではなかろうか。カッコ付けないとやっていけないのです。ここまでの文章を要約すると「早く会いたい」の一言に纏まった。わかりやすいでしょ。少しでも長く一緒に過ごせるように、今日も西へ西へと走っています。
専門セミナーはあっという間に終わった。19人の授業なのに英語落としたグループメンバーが2人もいて気まずいなと思いつつ、それを打ち消すくらい中実の知り合いが多くて世界の狭さを実感した。授業が早く終わったんだからステージの作業も前倒しできると思ったが僕にそんな権限はなく、普通に17:00から始まった。先人(昨年の自分たちと先輩)がまちかね後の片付けを丁寧にやっていたおかげでタスクが半分になり、専門セミナーの経済学部を呼び寄せたため作業は1時間で終わった。こんなに時間を貰っていいのか神様。待ち合わせ場所で本を読んでいるあなたを見つけると、ちょっとひとひねりした登場をしようかと思う心とは裏腹に足は既にあなたの方へ一直線に歩き出していた。今日は余裕がないらしい。
今日は本当に余裕がなかったようだ。いや、好きな人をその気にさせるぐらいには余裕があったのかもしれない。初めて触れたあなたの頬は想像通りにやわらかくて、なめらかで、想定外に小さくて。どうにも余らせてしまって戸惑った。体躯の割に大きめな手で初めて損したかも。これじゃ涙をやさしく拭うことすらままならない。泣かせないようにしないと。その後は、もう、戸惑いの連続だった。隣に座ってしまったから、ハグをするにもな感じだ。人の体はそんなに横捻りできないだろと思ったり、案外できたけど文字通り浮き足立ってしまったり。いざ頬がぶつかるとイヤリングにつられて顔までひんやりしていて、それが心地よくも甘えたいのは僕だけなのかなと不安になったり。全部が全部初めての感覚で感情で困っていたのに、あなたが足りないのか満たされたのか未知の表情をするものだからますます僕は惹き込まれて正解がわからなくなって。「後輩」という立場を利用して解答権を投げ出そうとしたけれどそれは許されなかったらしい。僕はきっと模範解答ではなかっただろうけど、気持ちが伝わっていれば嬉しいです。今日は2人言ってた通りダメダメだった僕でも、別れ際のもう一回は信じても良いですか?