「彼女できた?」
いつも通りの何気ない会話。予想出来た一言目。だのに瞬間、ひやりとした。今日昼ご飯に誘ってくれた文学部の彼は数少ない高校の同期だ。2年で同じクラスになって、同じVtuberを見ていたから話すようになって。成績も横並びで目指す大学も同じ。息抜きの『ポケモンユナイト』では彼がアタッカーで僕はサポート。共に最高ランクまで登った戦友で、模試だと順位を争うライバル。出席番号1番の彼と最後の僕は対角線上にいながらも隣合って歩んできたと思っている。
春休みに数回会って以来の彼の髪には少しパーマがかかっていた。今更大学デビューか?俺じゃなきゃ気付かなかったぞ?そんなに変わってなくて安心したわ。自分の知ってる彼がそこにいたことにささやかな心の平穏を感じ、「お前がぼっちで可哀想やから付き合ったるわ」なんて笑いながら、今日もパターン化され飽和した だけど飽きない会話が始まるだろうと思った矢先にあの発言である。サークルに入っていない陰キャな彼とチビでオタクで陰キャな僕には来るはずもない出来事。返答は判りきっていると言わんばかりの調子を前に口を衝いて出たのは「いると思うか?」という誤魔化しの言葉。「Yes」と言う勇気はなくて。もしそう答えたら浮いた話のないことを互いにいじりあってた彼との間に小さな溝が出来てしまうような気がして。これから昼ご飯だってのに腹に溜まるモノからは目を背けて彼の表情を見る。大丈夫、いつも通りだ。いつも通り。
その後は彼のバイト事情や授業のコマ数、僕が勧めたゲームのストーリーが前回からあまり進んでいないことなどを話し、思わず少しネタバレを言ってしまった。「チキン屋を始めることになった」と言ったら「つかみとして完璧」と褒めてくれた。くだらない話をしている間にさっきまで居座っていたモノはいなくなり、胃にはもう次の客が来ていた。僕の身体は僕と違ってイレギュラー対応が上手いらしい。昼休みギリギリまでだらだら喋って、ようやく別れて今、3限をBGMにこれを書いている。
もし彼女がいると言っていたらきっとあなたの写真を見せるだろう。彼にとってあなたが美人に映っても、仮にそうでなくとも、適度に茶化して祝ってくれる。彼はそれが出来る人間だ。そう頭で解っていながらも曖昧な返事に本心を包み隠し相手に委ねた僕は、事実を明かすタイミングを逃したことに安堵しているこの僕は、最低だろうか。