何が専門性を定義づけるのか

yagihash
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ここ数年、専門性って何なんだろう、というのを考える機会がちょこちょこあり、最近もまたそんなことを考えているので思考の整理のために文章に書き起こしてみる。ある事柄を、何をもって専門的といえるのか、と言い換えてもよい。

困ったら一般にどう定義されるものかを見てみるのがよいだろう、ということで思いつく範囲で見ていく。

そもそも「専門」とは?

1 限られた分野の学問や職業にもっぱら従事すること。また、その学問や職業。「彼の—は法律だ」「—外の仕事」

2 もっぱら関心を向けている事柄。「趣味は釣り—です」

1はすんなり理解できるが、2は興味深い。より主観的な定義というか、もっぱら関心を向けていることをもって専門といえるというのはおもしろい。結果的に1と2が同じものを指す場合が多いから意識しないだけで、自分にとって何が専門かは自分で決めてもよいのかもしれない。

では「専門性」はどうだろう。

特定の分野についてのみ深く関わっているさま。高度な知識や経験を要求されること、またはその度合い。「専門性が高い職種でスキルを磨く」などのように用いられる。

専門性のある領域といえばそれは高度な知識や経験を要求される領域であり、ひとくちに高度といってもその度合いは様々ということらしい。不特定の分野に関わるならばそれは専門性がないということになるのだろうか。

分野横断的なさまや、高度な知識や経験を要求されないことを指す言葉はあるだろうか。

すべてのものに通じる性質。また、広い範囲に当てはめることのできる性質。普遍性。「—に乏しい論」

すべての物事に通じる性質。また、すべての物事に適合する性質。「—のない理論」

一般的な職種と専門的な職種という対比は成立していそうに感じられるが、それでは誰かにとっての一般的な職種には専門性はまったくないのだろうか。一般的な知識と専門的な知識という対比の方がすんなり受け入れられる気がする。専門的な知識が求められる職種がつまるところ専門性のある職種ということなのだろうか。

ただ、この一般的な知識というのもある集団での一般的な知識がまた別の集団ではそうでないこともあるように、その時々で意味合いが変わるように思うし、一般的であるか・専門的であるかというのは常に何かと何かの対比の中でしか定義できないものではなかろうか。


では、条件を少し絞って、ある組織・ある職種における専門性は何によって定義されるのだろうか。

例えば、今わたしは自身が専門と自覚する領域とは全然違うことを本業としてやっているが、たまたま持っていたスキルセットが潰しが利くものであったから今の仕事ができているだけで、そこに専門的な知識技能を見出せといわれると少し困ってしまう。仕事を進める上でのありとあらゆる知識技能が、突き詰めていけば何らかの専門になるという見方もできるかもしれないが、とはいえ一定の年数以上働いていればそれは誰もがそこそこのレベルで知っている・できることだよね、という知識技能も多数あるはずで、そこに専門性を見出せというのは些か無理がある。

これは単にその職種の専門性が低いということで片付く問題ではあるものの、一方で組織は専門的であることを従業員に求めるし、それでは組織がいう「専門的である」ってどういうこと?という疑問も当然出てくる。ある組織や職種における専門性をメンバーが自覚できないとき、誰がその専門性を定義するべきだろうか。これはキャリア形成にも大きく関わってくるはずで、労働市場における自身の価格は、どこで働くかと何ができるかのマッチングで決まるものであり、誰もが知っている・できること=希少価値の低い知識技能に高値は付かない。

理想をいえば日々の業務を通じてそういうものが自然と醸成されるべきであるし、取り組んだ時間に応じて自身の専門に関する自覚が芽生えるのが健全ではあるだろう。ただ現実に、ある種の専門性の低い業務というのは存在するし、何らかの専門の自覚があるかどうかと、そういった業務に従事するかどうかは必ずしも関係がなく、たまたまそれができてしまうからやっている、というのはよくあることではないだろうか。そして厄介なことに専門性の低さとその業務の重要性もまた関係がない。また、一定の専門性の高さはあるが、組織の業務への依存度が高く、組織内に閉じた専門性であり、組織外では通用しないということもあるかもしれない。

いずれの場合も、対外的に自分が何をやっていたか、何ができるかを端的に説明しづらいという問題があり、同じような課題に取り組んだことのある者同士であればある程度通じ合うものもあるかもしれないが、わたしの経験上、社内でも社外でも何をやっているかを話しても通じないことの方が多い。そもそも説明が難しすぎる。(※ドメスティックな事業ドメインの中で生まれた歪みを補正するための業務をやってるんだなーと書いてて思った。存在意義をひとことで表現できない業務の説明はそりゃ難しい。)

結果として漠然とした先行きの不安や、このまま続けて何になれるのかという疑問、ひいてはモチベーションの低下が生じる。というより今まさにわたしが感じている。人間はそんなに辛抱強くないので専門的であることを組織が求めるなら何を専門的とみているかを組織がちゃんと明示して欲しいと感じている。

@yagihash
雑念エンタテインメント