春休み、時間が有り余っているため普段は読まないジャンルに手を出してみた。「旧約聖書・ノアの方舟」になぞられたミステリー小説。検索してみると“クローズド・サークルミステリー”と表示される。意味は、外界との往来が遮断された状況下で起こる事件を扱った作品のこと。ミステリーはてんで疎いもので、ミステリーに大別された作品がまた細かいジャンルに分けられて呼称されることを初めて知る。ホラー映画でいうサイコホラーみたいだ。
あらすじ---方舟を模した密室の地下建築で一人の男が殺される。そこから殺人犯を見つけるとともに、地上へと脱出を図るお話。
エピローグで明らかになる新事実が想定を裏切ってきて面白い。所謂、どんでん返し。ただ、そのどんでん返しが起こるまでが長く、頂の景色を見るために険しく長い道を登れるか...?と感じる部分もあった。殺人犯が特定されてからはスルスルと読める。私の好みとの相性はいまいち。
麻衣を殺人犯かもしれないと感づいたのは、「どんな死に方は嫌か?」と問われたときに「溺死」と答えたとき。他にも、翔太郎や花が殺人犯だと予測してた。逆に言えば、隆平や矢崎一家の描写は少なくて物足りなさを覚える。殺人犯として推理するには要素が足りない。しかし、麻衣の本当の動機は「生きたい」という生への執着であったわけだから、描写がすくなかろうと誰が犯人でもあり得た話なのだ。だとしても、矢崎一家はやはり殺人犯としては考えにくい。父親の電気工事士という職業を生かしてストーリーの蓋然性を保つためか、まだ幼い息子を登場させることで麻衣の思いやりに溢れる人物像をアピールするために登場させたように感じてしまう。
地下建築の描写はミステリーを読まない私には理解しづらく、イラストで平面図や断面図を載せてありとても助かった。
この作品は、日常を切り取ったお話とはまた違うのだろう。ミステリーとは大概そういうものか...?麻衣が脱出後どのように人生を歩んでいくのか想像し難いし、想像できたとしても麻衣の人生の絶頂はこの地下建築での事件なわけでそれ以降の人生を知っても面白味に欠ける。私は、日常を切り取ったような作品が好きみたいだ。そのなかで起こるヒューマンドラマや心理描写にとても心を惹かれる。好みとはズレたところにある作品であったが、客観的に面白いお話なのだろう。他のミステリーも、もう少し手に取ってみたい。