春休みミステリー小説二冊目。私の通う図書館にはポストがある。みんなの読みたい本を募集するポスト。図書館といっても、地域の交流館にある一角を本棚にしたような小さなスペースだから、ポストに集められる要望の数も多くはないらしい。リクエストの新書がよく並ぶ。その新書スペースで見つけた一冊だ。誰か、湊かなえさんのファンがリクエストしたのだろうか。新書スペースを通じて地域の人の嗜好に思いを馳せたりする。それとも、リクエストではなく職員さんのおすすめだったりして。
あらすじ---人間標本。蝶の標本のように、生きた人間を殺し美しく飾るために手を加え、標本にする。そんな猟奇的殺人者の記録。
この本を手に取ったとき、タイトルを見てとても興味をそそられた。人間を標本にする。標本って、生きている人間のずっと続くはずだった時間を奪い、その瞬間に留めてしまうわけでしょう。「一体どんな理由で?どんな人間を?」と想像を膨らませた。けれど、蓋を開けてみれば私が期待していたストーリーとはまた違う作品だったように思う。
作者は読者に殺人犯をこの人物だと思い込ませ、それが二転三転する様子を楽しませようとしたのではないか。まず、蝶の虜となった榊史郎。次に、その息子である至。そして、杏奈。最後に、杏奈の母親の留美。
本当の殺人犯といえる留美の動機が私には理解も共感もできなかった。特殊な色覚というギフトをもって生まれた彼女は、その個性を生かしながら絵描きとして生きてきた。彼女が小学生の頃、榊史郎に譲ってもらった蝶の標本に強くインスピレーションを受けたことも理解できる。ただ、そこからどう転じれば人間標本を残したいという発想に辿り着く?読者に留美が殺人を企てていたことを悟らせないために、留美の描写が少ないにしてもあまりに詳細が不足している。
また、標本の対象に選ばれた少年五人は彼らである必要があったのか?たまたま留美にとって都合がよい存在であったというだけなのか。殺人の対象って、もっともっと執着するものじゃない?留美からの少年らへの気持ちが全く読み取れず、丁寧な心理描写を好む者としては物足りなさを覚えた。
良いと感じた部分は、最後の蝶の擬態のところ。蝶にとっての擬態は、無毒の蝶が有毒の蝶に姿を似せる現象のことを指すらしい。それを、殺人犯とかけて綴られていた。素敵。
ひとつ前に読んだ「方舟」と比べると、私は方舟のほうがまだ好きだったかなと思う。それでも、ミステリーというジャンルに触れるのは面白い。次回ミステリー小説を読むときは、登場人物の関係性や心理描写が丁寧な作品を見つけてみようと思う。