楽しみたいだけなら止めんけども…

山田 唄
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公開:2026/2/22

 最近根城にするようになったスレッズのおすすめTLに、日常的に「絵は技術じゃなくて気持ちです!!!」「楽しみましょう!!! それだけでいいです」という投稿が流れてくる。あまりにも胡散臭いのでなるべく見ないようにしたいのだが、ブラウザ版スレッズを開いた時に真っ先に展開されるのがおすすめTLなので、否応なくそれらの思想が目から脳に侵入してくるのだった。

 が、まあ二十年以上イラストをやってきた俺からすると、楽しいだけのお絵描きなどどこにもないのではないかと思う。基本的に絵を描く工程はその多くが苦行であるし、まあどの工程に苦痛を覚え、また逆に快楽を感じるかは人それぞれだが、大体の人に「この工程は苦手!」という部分がある。

 中には本当に稀に全ての工程を楽しんで履行できる人がおり、彼ら(しかもそういう人は大体絵が上手い)が「絵なんて楽しむだけでいいんだよ」と言ってしまうから周囲の人間が勘違いして、「そうか! 楽しむだけでいいのか!」となってしまうわけだが、凡人に彼らの真似をするのは不可能である。何度でも言う。絵を描く工程は基本的に苦しい。

 まあそれでも、極力苦しさを減らして、自分が楽しむ努力をすることは大事であると俺も思う。苦しいだけの趣味など続かないからである。

 金を貰って仕事としてこなすクダリになると締切までに完成させなければいけない、という責任が発生するし、そうなればクオリティはさておき無理矢理完成まで漕ぎ着けられる、という人は割と多い。そのような人は、例えばイベントに向けて描くとか、自ら締切という縛りを設定してSNSなどで宣言し、自分を追い込みながら描くとかすると上手くいく場合が多かったりする。

 が、普通の人間は基本、縛りがあればあるほど消耗するし、根っから楽しくない行為に何時間もかけられない。そこで、例えば絵を描く工程の中でも自分が特に好きな工程、楽しい工程にスポットをあて、そこを最大限楽しむ工夫をすることで他の工程の苦しさを薄める、などの改善策を取ると、案外上手く行ったりする。

 例えば俺は、構想やラフの段階が基本的に苦痛であり、ゴリゴリ塗り込む工程、脳死で描き込む工程などに快楽を覚えるタイプのパワー系絵描きである。そこで、ラフの段階で決めるキャラデザや構図の細部をできる限り削り、描きながら組み立てていくという策を取ることで構想の辛さを薄めている。

 まあ、そのような対策を取ろうとも、基本的には絵を描くことは苦しい。そもそも今の世の中、動画やらその他版権創作やら、人様の自創作やらさまざまな美味しいもの、楽しい趣味がいくらでもあるので、それらの誘惑を断ち切ってただただ淡々と手を動かすという行為は、基本的にほとんどの人間にとっては苦行なのだ。

 であるからして、無理に「楽しくやらなきゃダメなんだ!」と思ってしまうと、逆に苦しさが増すケースが割とある。俺もそのタイプで、イラストを真剣に勉強し始めて間もない頃に、全く同じ人から「楽しくやりましょう」という言葉と「学芸会のお遊戯じゃあるまいし、楽しくやるだけじゃダメでしょ」という言葉を代わる代わるかけられ、大いに混乱した。

 その時は今以上に自我が弱く、他人の言葉にうんうんと頷いて全てを飲み下してしまう機械的人間だったので、余計にそれら矛盾した言葉が痛手となってしまった。そういう人が俺の他にもかなりの数いるのではないかと思うのである。

 先日俺も、「絵は楽しんでいいものなんだ」という記事を書いたが、あの記事中にもちゃんと但し書きしておいたように、絵を嗜む動機は人それぞれで良い。評価を得るための武器として絵を描く人のことも否定しないし、自分の言いたいことを絵にこめる表現系の描き方も悪くないと思う。

 なぜか人間の中には、他人に自分の思想を押し付けないと気が済まないタイプの同調圧力型人間が数多くいる。そういう人たちにもちゃんと言っておかないとなと思って今この記事を書いているわけだが、あなたが「これ!」というはっきりした思想を持っているように、他の多くの人間にもそれとは若干違った、ないし大きく違ったそれぞれの思想と主張がある。それがぶつかった時に相手の話も聞かずにただただ思想を押し付けるのは、ただの横暴である。

 まあ、そういうことをここんとこモヤモヤ考えていた。俺にとって絵とは、基本として苦楽しいものであり、苦しい工程をあえてなぞることそのものが俺にとっての楽しさなわけだが、ぶっちゃけこの楽しみ方は少数派であろうと思うしだからと言って他人に「お前もこうしろ!!!」と言うつもりはない。

 苦しい経験がどうしても嫌だから、上達や評価なんて度外視して好きな絵を描きたいように描いていたい、という人の主張も尊重したいし、その代わり俺たちの苦しさを否定しないでいてほしいと思っている。

 まあ結局、いろんな人がいるんだからいろんな絵の楽しみ方があっていいよね、と言うところに尽きる。

 SNSなんてやっていると、他人の主張がダイレクトに目に入ってきてそれで惑わされてしまうケースがなんぼでもあるが、自他境界をしっかり引いて、スルースキルも発揮しつつ程々に絵もSNSもやっていきたいですね。

 そんな感じです…。

@yamadauta
創作やりながらギリギリで生きているおじさん。ここには普段考えてはいるけれど表に出せないタイプの思想強めの文章を書いて出ししていこうと思います。