十年だか二十年だか前に、年頃の女の子が読むような女性誌で取り上げられた「愛され体質」という言葉が脚光を浴びて、ほんの一瞬だけブームを呼んだ記憶がある。要は、愛される人間になるには、みたいな特集である。
当時は私も裏若き年頃の男の子だったので、その特集を「ケッッッ、なーにが愛され体質じゃ、なんでもかんでも“体質“って枕詞をつけて特集に仕立てやがって」なんていう穿った目線で見ていた。実際、その特集にそれほど深みのある内容はなかった記憶があるし、おそらく妹の買っていた雑誌を横から読ませてもらって目にした記事であったと思うがそれを購入した妹自身もさほど真に受けたりなどしていなかっただろう。
まあ、あの頃から雑誌や週刊誌といった媒体はネガティブな言葉で人の気をそそる“釣り“の手法を多く取り入れたものになっていたし、件の記事もその一環でしかなかったと思う。
しかし、「愛される方法」ないし「愛される才能」というものは実際に存在するよな、と最近ぼんやり思う。
特に周囲に気を遣っている様子もなく、ごく自然に振る舞っているのに周囲に人が集まってくる人間というものは稀にいる。稀に、というか一クラスに数人、くらいの単位でそうした人間が発生する体感がある。彼らは過たず多くの友人を抱え、クラスの中心的な存在になり、スクールカーストの上位勢に名を連ねる。
いわゆる「カリスマ」というやつだ。何も考えずに発する言動や仕草そのものがどことはなしに人の気をそそり、その一挙一動に注目が集まるのである。「言動に華がある」という言い方をすることもできるだろうか。
まあそういう才能持ちは、どのような分野においても大抵大成する。何をしても魅力的なのだから、どんな場所で何をしていようと大抵人の目を引き、人気が集中するのである。これは顔がいいとか、性格がいいとか、頭がいいみたいな実質的な数値に直せるパラメータとはまたちょっと違う。
何が原因かわからないけれども惹きつけられる。気がつくとその人のことを目で追っている。「フェロモン」みたいなものを常時発しているという感覚だろうか。しかし、その手の人はネット上でも大抵人の目を集めているので、おそらく振る舞いや言葉の一つ一つが洗練されていて人目を引くのだと思う。
まあ、斯様な才能持ちにとって、正しくこの世はヌルゲーである。
何をしようとそこに注目が集まるのだから、人気商売のほとんどで無双できるし、特に現代のSNS社会において、彼らは四面六臂の活躍を見せる。どんなに特出した個性や特技を持っていようと、コミュニケーションに時間を費やそうと、彼らの生まれ持ってのチャーミングさには敵わない。気がつくと周囲の人間は彼らを中心に動かされており、彼らの周りには人が幾重にも垣根を作る。
今人気を集めている人で言うならば、私も大好きな「にゃるら」さんとか、「さいとうなおき」さんなんかが特に、その能力持ちの中でも強力なチャーム(魅了)能力の保持者であろう。人気を得るアイドルやユーチューバーさんなんかもこれに当たると思われる。
正直、羨ましいですよね。その能力を持っていれば、大抵の人生はイージーモードになるんですから。
人間は生まれ持ったカードと、人生で獲得してきたカードで戦うしかない。しかるに「愛される」能力の保持者は、ジョーカーやエースなどの強力な手札を有した引きの強いプレイヤーだ。
人生は不公平である。でも、だからこそゲーム性があって面白いのかもしれませんね。生まれつき弱い手札で戦わなければならない人の苦労はそれはもう偲ばれるけれど…。