私がネットで特に「友人」という場合、大体S藤さんのことを指す。彼とは通院先の病院で出会ってからもうずいぶん長い付き合いになる。
出会った当初のことは昔すぎてもうほとんど覚えていないのだが、当時からなんとも間の抜けた面構えで飄々とおかしなことを言う。弱者のふりをして俺を陥れようとしているのではないか、と身構えたのも最初だけで、本当に警戒心というものの薄い正直で裏表のない人間だと気づくのに時間はかからなかった。そこからマブダチになるまでも一瞬だったと思う。
私はこの通り、いろんなことを難しく考えがちなところがある。言葉遣いにもやたら険があるというか、効果的な言葉を自動選択する機能が標準装備されているせいで強い言葉をわざわざ使いがちである。今は多少和らいだ方で、何年か前まではもっと酷かった。
そんなわけで、私の周りには好奇心から様々な人が寄り付いてくるのだが、皆付き合っているうちに消耗して去っていくことがほとんどであった。残る人は大体が私のおかしさを許容できる程度には変人であるので、気がつけば変人の巣窟のさらに深いところに吹き溜まる変人の澱を形成してしまう。変人だけどみんな私を励ましてくれるいい人だよ。(フォロー。
そんな私のそばに好んで居着いたのが友人であり、気がつくといつも隣に奴がいた。私のような奇妙な生き物がことさら珍しいのだろうな、という目で見ていたが、どうやら彼も立派な変人だったようで、後々染み出すようにおかしな行動を連発し始める。病院の職員さんに「一緒に路上ライブやろうぜ」と持ちかけて、徐に作曲活動を始めたり(秒で挫折していた)、どこかで聞き齧った語彙を自慢げに披露するわりにそれが全部絶妙に間違っていたり、綺麗な女の人を見かけると見境なく口説くわりに全然相手からの心証が悪くならなかったり。
まあそんなだったので、しばらくすると本来他人にブレーキをかけられる立場の私が友人のブレーキ役として機能するようになってしまった。それからはしょっちゅう彼の世話を焼いている。人間の世話をしているというよりは珍獣でも飼っている感覚だが。
何せ語彙力が低かったので、付き合い始めた当時、彼の話をまともに理解できる人間が私を含めてガチで三人くらいしかいなかった。会話に非常なボキャブラリーと想像力を要求してくる。その三人でせっせせっせと介助しながら、私はひたすら本を読め、活字に触れろと唱え続けた。
幸い彼自身が私のイラストの活動を見て、自分も何か創作活動がしたいと言い始めその対象として随筆を選んだので、彼は進んで活字の世界に入っていき今では割と日本語っぽい言葉を話す。成長したな。
そうして最近気づいたのだが、彼も言葉にできなかっただけで、割と様々なことを深く考えているし、むしろ人一倍他人の気持ちに敏感だったり様々な出来事の波に過剰に煽られてしまう性質であるようだった。このところ、それら考えたことを豊富になってきたボキャブラリーと語彙力で披露してくれるようになり、「お前、そんなこと考えてたのか…」となることが度々ある。近頃では私の方が彼に人の感情に付いて学ばされるようになった。
まあ、彼にとって自分は良いパートナーなのだろうし、私にとっても彼はかけがえのない人物だなと思うところである。とにかく人格に表裏がないので、彼と一緒にいると皆ほっとするのだ。そうして癒された上で彼に好意を抱く人間も多く、既婚者でありながらかなりモテる。周囲に信頼もされていて、正直そのようなところは羨ましい。
彼とはなんだかんだ長い付き合いになってきたし、これからもああだこうだ言いつつも一緒にいるのだろうなと思うのである。これからもよろしくな。本を読め。