駅までの道を歩く。大体30分くらいだから駅に着く頃には少しだけ肌が汗ばんでいる。電車の起こす風が肌を冷やして寒い。季節はもう冬になろうとしている。耳に差したイヤホンからピコンと通知音がして画面を確認すると、君からのメッセージ。パスワードは君と僕が初めて直接顔を合わせて話した日。ロックを解除してよく使う通話アプリを開くと、ペットと一緒に戯れる写真だけが送られてきていた。『たのしそうだね』と返すと、すぐに文字を打ち込んでいるようで、入力中…のあとにひとつ『かわいいよ』と返ってきた。写真に映る彼は半袖を着ている。彼の国では夏に向かっているのだ。スマホの画面を閉じて息を吸い込んだ。すっきりとした空気が肺を満たして気持ちが良かった。
違う場所にいる君を愛おしく想うとき、君も僕を愛おしくおもっていたら良い。ともに手を重ねたとき、大切ななにかを心に宿したとき、僕は初めて人間になれた気がした。
かかとを上げる。踏み出した足の先で愛を落としてしまわないように。