動画配信の現場でおさえておきたい ~ AWS Elemental Liveの機能とコーデック選定 ~

meteor
·

はじめに

本記事では、AWS Elemental Liveの機能や設定のポイントをわかりやすく解説していきます。また、動画配信の現場で重要となるコーデック選定について、各コーデックの特徴や使い分けのポイントを紹介します。Elemental Liveを最大限活用し、高品質な動画配信を実現するためのヒントが詰まっています。

Elemental Liveの機能

出力プロトコル

  • Secure Reliable Transport (SRT)

    • 安定した伝送と低遅延が特徴の新しいプロトコル

    • MPEG-TSをUDP上で送受信できる

  • Zixi

    • 有償のプロトコルだが、不安定な回線でも高品質な伝送が可能

    • FEC(前方誤り訂正)にも対応し、高い安定性を実現

  • AWS Elemental MediaConnect

    • SRTとZixiの両方のプロトコルに対応

    • AWSリソースとの連携が容易

PIDコントロール

  • SCTE-35にチェックを入れることで、SSAI(サーバサイド広告挿入)が可能

  • SMPTE 2038に準拠したメタデータを挿入できる

    • 例えばKLV(Key Length Value)メタデータを埋め込める

    • Timed metadataとして時系列メタデータの挿入も可能

KLVとTimed Metadata

KLV (Key Length Value)

  • SMPTE 2038に準拠したメタデータ

  • 映像ストリームのTSパケット内に埋め込まれる

  • メタデータの種類は可視メタデータ(人間可読)と非可視メタデータ(機械可読)に大別される

  • 用途例:

    • 非可視メタデータとして放送コンテンツID等を埋め込む

    • 可視メタデータとしてスポーツ中継でスコアやプレイヤー情報を映像に重畳表示

Timed Metadata

  • 時系列ごとにID3メタデータを挿入できる機能

  • 映像の特定の時間にメタデータを合成できる

  • 用途例:

    • CM入れ替え用のタイミングメタデータを挿入

    • プログラム編成情報を挿入し、視聴者に見せる

このように、KLVとTimed Metadataを活用することで、メタデータを映像に密接に関連付けられます。メタデータ活用のニーズが高まる中で、これらの機能は益々重要になってくるでしょう。

タイムコードとARIBサポート

タイムコード入力

  • 入力映像に埋め込まれているタイムコードを抽出し、出力映像にも反映できる

  • embedded、zerobased、systemclock、referenceコネクタの4種類からソースを選択可能

  • embeddedならタイムコードをそのまま使用し、zebrobased(開始値0)、systemclockやreferenceコネクタ(外部LTCソース参照)の場合は内部タイムコードを生成

タイムコード活用

  • 入力クリップをタイムコードベースで正確にトリミングできる

  • タイムコードにあわせてスケジューリング編成の自動化が可能に

  • 広告出し入れのタイミングをタイムコードベースで厳密に制御できる

ARIBサポート

  • Elemental Liveは日本の放送規格ARIBに準拠したエンコーディングが可能

  • 字幕の通過 (burn-in、DVB-Sub、データ付き字幕)

  • ARIB Captionsパススルー

  • ARIB TR-B39準拠のSDIデータ処理(ビデオ/オーディオ選択信号検出)

  • ARIB STD-B10準拠のドルビーエンコード

日本市場における放送/送出に必須のARIB規格をフルサポートしているため、Elemental Liveは国内動画配信に最適なエンコーダと言えます。

ビデオコーデック

  • MPEG-4 AVC (H.264)

    • 古くから広く利用されている優れた汎用コーデック

    • ハードウェアでのデコード処理に非常に適している

  • HEVC (H.265)

    • H.264から約40%の圧縮効率向上を実現

    • まだ一部端末での対応が遅れているが、次世代の主流コーデックに

  • MPEG-2

    • 古いコーデックだが、まだ多くのSTBで活用されている

    • SDTVでの利用に適する

  • JPEG XS

    • 超低遅延のコーデックで、遠隔医療などへの利用が期待される

  • その他にもProRes、アンコンプレスト、フレームキャプチャにも対応

オーディオコーデック

  • AAC

  • Dolby Audio (AC-3, E-AC-3)

  • MPEG-1 Layer II

  • WAV/AIFF

  • DTS

様々なオーディオコーデックに対応しており、複数のトラックを出力することも可能です。また、Audio Normalizationで音量の正規化処理も行えます。

キャプション

  • Webキャプション(SRT, WebVTT, TTML, SMPTE-TT)への変換が可能

  • 入力キャプションの通過や新規生成もできる

  • アクセシビリティ対応の重要な機能です

入力と冗長化

  • 入力はSDI/IP/ファイルに対応

  • マルチプログラムTSからの特定プログラム選択が可能

  • Hot Backupで入力の冗長化ができる

  • 各入力でVideo/Audio/Captionを個別にセレクタ設定可能

監視機能

  • リアルタイムエンコーディングのため、常時の監視が重要

  • MPTSの場合はProfile Management Suiteで詳細監視が可能

  • CNMIで全体を俯瞰し、スループットや障害箇所を監視

まとめ

Elemental Liveは非常に高度な機能を備えたエンコーダです。適切な設定とコーデック選定により、高品質な動画配信サービスを実現できます。一方で、間違った設定では品質が低下する危険もあります。

本記事で紹介した内容を理解し、ベンチマークとモニタリングを行えば、Elemental Liveの本当の力を発揮できるはずです。オンプレミスやクラウドで優れた動画サービスを提供してみてはいかがでしょうか。

@yaminoma
NAXA株式会社 Founder / CEO。マルチメディアリサーチャーとして動画技術の研究なども行なっている。 Netflixで好きな番組は Test Patterns です。 何かあれば www.naxa.co.jp/contact までお願いします。