DVBから見る放送技術のIPトランスフォーメーションとFreelyから見るスマートテレビの未来について

meteor
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会社紹介にも、DVB-NIPに注目しています、と大々的に書いていたり、各種講演でも話題に上げていますが、ここで、グローバルな放送技術について振り返ってみましょう。

以前、LTで発表させていただいた資料には、ISDB-T/S/S3の話や、DVB-S/S2の話をさせていただきました。後半には、放送とIPの融合であるMMT/TLVについても軽く触れさせていただきました。

さて、現在、グローバルでは放送とインターネットがホットな話題となっています。

放送技術の観点から見た、IPトランスフォーメーション

ここからは、放送技術の話をメインにします。いわゆる配信アプリではなく、日本で言うと放送法の基幹放送にあたります。したがって、品質とサービスが求められます。

我が国で使われている放送規格はご存じの通り、ISDBで、NHKが開発した放送規格が使われています。個人的に日本が生み出したテクノロジーの結晶は、ISDBとNTTが開発したNGN(Next Generation Network: フレッツ網)の2つだと思っています。次に来るのはIOWN(光電融合技術)と呼ばれる、遅延とスループットの壁を越えてくる技術だと思っていますが、放送のほうはまだピンと来ていません。

さて、欧州の話に戻りますが、欧州ではDVBと呼ばれる規格が古くから使われていました。DVBは、放送におけるデファクトスタンダードだと言われており、仕様もすべて公開されています。

そのDVBですが、現在はインターネットをメインとした考え方にシフトしようとしています。

DVBの数ある規格の中からDVB-Iが数年前に誕生しました。DVBでは、DVB-DASHと呼ばれるテレビ放送のインターネット配信の規格があります。これにより、テレビ放送をインターネット経由でMPEG-DASH方式で配信が可能となりました。エンコードには、DVB-AVCで規定された方式が使われます。

このDVB-DASHを電波で降ってきた放送のチャンネル切り替えや番組表表示と同じユーザー体験を実現するために生まれたのがDVB-Iなのです。DVB-IはもともとHbbTV(Hybrid Broadcast Broadband TV)と呼ばれるプロジェクトがきっかけになっています。HbbTVはテレビとインターネットを融合した規格であり、元々はフランスとドイツのプロジェクトから生まれました。我が国では、ハイブリッドキャストがHbbTVに強く影響されているそうです。

DVB-DASHと同じく、ストリームの複数解像度の送信(ABRコンテンツ)に対して、DVB-MABRと呼ばれる規格があります。DVB-MABRは、CDNでの輻輳を解決するべく、ABRコンテンツをマルチキャストとして一斉に送信を行う仕組みで、ユニキャストと比較すると輻輳する心配はありません。DVB-MABRでは、CMAFが使われます。

受け取ったMABRは、受信機のほうでマルチキャストのまま受信しますので、受信機に合わせた解像度を選択できますが、マルチキャスト非対応機の場合は、別途ユニキャストに変換するゲートウェイが必要になります。

この問題を解決するために、イギリスにあるBTグループ社は、CPE(宅内装置、日本でいうホームゲートウェイ)にnanoCDNと呼ばれる、家庭内CDNを設置し、そこからユニキャストで配信を行う、MAUD(Multicast-Assisted Unicast Delivery)という仕組みを考案しました。まだ、BTグループ社しか事例はないですが、マルチキャストのデメリットを解決する糸口になるのではないかと言われております。

また、DVB-MABRのデメリットがいくつかあり、MABRするにはプレーヤー側がAPIを追加で叩かないといけなかったり、既存のDRMの仕組みとの相互性確保のために大変だったりします。また、MABRの場合はサーバサイドから品質が確認できないため、プレーヤー側からのメトリクスやログが必須となります。

そういった観点からも、MAUDは世界中で注目されているのです。

次に、放送のヘッドエンドと伝送路のIP化も進んでいます。去年のIBCでは、DVB-NIP(Native IP)がホットなトピックスでしたが、DVB-NIPは、従来の放送ヘッドエンドから伝送路の大変革です。

DVBにはT2と呼ばれる地上波とDVB-S2と呼ばれる衛星での伝送の仕組みがあります。(ケーブルではDVB-Cもある)

DVB-NIPでは、これら仕組みをすべて組み合わせ、DVB-DASHをDVB-MABRでユニキャストからマルチキャストに変換してIPで飛ばします。DVB-MABRでは、名前の通り、ABRデータをマルチキャスト化してます。

このIPを変調して、DVB-TやS2を使って電波で送ります。一方で、インターネットで直接受け取りたい場合は、そもそも、DVB-NIPの元となっているのがDVB-DASHですから、そのまま受信が可能です。つまり、インターネットの考えをデフォルトに、放送波にも同じ仕組みにしたというわけ。

受け取ったMABRは、受信機のほうでマルチキャストのまま受信することもできますし、別途ゲートウェイを挟むことで、ユニキャストとして受信も可能です。

そんなわけで、従来、電波で降ってくるのは、我が国と同じくMPEG-2 TSでしたが、これがDVB-DASHを基本とした方式になったのが、DVB-NIPです。

ここまで、放送規格のお話をしましたが、我が国のBS4K配信などで使われているMMT/TLVもIPベースの仕組みであり、将来的にはIPでそのまま伝送も考えられているが、欧州はその先を行ってますね。

ここまでが放送技術の話でしたが、次にアプリの話をします。

配信アプリから見た、スマートテレビの未来について

ここからは、先ほどの放送技術の話は一旦忘れて、スマートテレビの観点から見たお話をしましょう。

BBC(英国放送協会)が世界でおそらく一番最初に出した放送の視聴アプリであるiPlayerはご存じでしょうか。我が国では、NHKプラスが思い浮かびますが、その先駆けとなったアプリです。

リリースしてから16年が経過していますが、iPlayer以外にもイギリス大手の民放であるITVがリリースしているITVXもあります。ライブ以外にも、皆さんがよく使うYouTubeやVODサービスだとAmazon Prime VideoやNetflixなどたくさんアプリがあります。そう、アプリがたくさんあり、視聴体験が損なわれています。

これらを横断して視聴できる仕組みが今までなかったのですが、今年、BBCが中心となって、Freelyと呼ばれるプラットフォームを誕生させました。

イギリスには、地デジのことをFreeview、BSをFreesatと言います。

Freelyでは、FreeviewやFreesatさえも融合してしまい、アンテナがあれば放送は見れるし、各放送局のライブ配信がやっていれば、インターネットからも視聴が出来ます。

Freelyの競合としては、我が国ではほとんど使われているGoogleのAndroidTV(GoogleTV)やAmazon FireTV(最近はパナソニック社がスマートテレビに採用したのが記憶に新しいですね)が代表例です。ほかにも、Apple TVもそうですし、アメリカではRokuが主流ですね。どのOS、デバイスも、似たようなことはできますが、やはり制約があり、あくまでもアプリとして意識せざる得ないという点があります。

Freelyは、個々のアプリを融合するのが目的なので、競合に比べると、少しアプローチが異なります。また、オープン化を目指しているため、他の商業OSや機器に比べると、組み込みやすいのもポイントです。

個人的にはAndroidTVのTuner Frameworkで悩まされたので、オープン化して組み込みやすくなると、テレビ受信メーカーもメリットがありますね。

Freelyの詳しい説明は、マシュー氏の記事がわかりやすいので、こちらをご覧ください。

@yaminoma
NAXA株式会社 Founder / CEO。マルチメディアリサーチャーとして動画技術の研究なども行なっている。 Netflixで好きな番組は Test Patterns です。 何かあれば www.naxa.co.jp/contact までお願いします。