3/9
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再入院してはじめての朝。看護師さんの声で目が覚める。幸運なことに窓際のベッドを割り当ててもらえたので、太陽のありがたみを感じられることができてうれしい。わたしの主治医の先生は2人いて、外来のいつもの先生(O先生)とは別に、入院時には病棟担当の方もついてくれる。名札に書かれていた名前が前回の入院のときの先生とは違う人だったから不安があったけれど、挨拶に来てくださった新しいその先生(T先生)も朗らかで穏やかそうな人だった。O先生が来ない日にはT先生が診てくれるのだそうだ。栄養士さんからも食事内容の説明を詳しくしてもらえて、すこし安心。前のときはコロナの感染症対策で閉鎖されていたデイルームが開放されたようで、夜には患者さんたちがテレビを観たり本を読んだりして各々自由に過ごしている。ふたりのおばあちゃんが新しい学校のリーダーズについて話しているのが聞こえて、なんだか微笑ましかった。
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3/10
日曜日だからか病棟も心なしかしずか。食事とシャワー以外の時間はほとんどうたた寝をしているような感じだった。普段は日中に舟を漕ぐのに抵抗があって、自分からはあまりそういったことをしないけれど、きょうはすごく気持ちがよかった。シャワー室と間違えてカンファレンスルームのドアノブを何回も回してしまう。なんで鍵がかかってるんだろうと不思議に思っていたら、傍で電話をしていた女性にシャワー室の方向をジェスチャーで教えてもらってようやく気がついた。はずかしい。ねむる前に『家をめぐる3つの物語』を観た。
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3/11
さっそく外の空気が恋しくなっている。この病棟で窓を開けられるのはシャワールーム(とはいっても、ほんのわずかに)だけだから、シャワーを浴びるときにはいまがチャンスとばかりに鼻からめいっぱい空気を取りこむことにしている。ベッドに座っている時間が長くなるにつれて腰やおしりの骨があたって痛くなってきた。看護師さんにお願いして持ってきてもらったクッションが想像以上におおきくてびっくり。でもありがたく使わせていただきます。この部屋の窓からは空がよく見える。どこまでも広がる薄い青色を眺めながら、13年前のこの日を思い返していた。
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3/12
1日曇り模様の日。看護師さんの気遣いで、あたたかく蒸したタオルをもらったのでさっそくお腹にあてる。こうして温度を与えるとお通じにいいのだそうだ。ほかほか、あったかい。朝ごはんを終えてから映画を観た。『ある男』と『心のカルテ』。安藤サクラさんは言わずもがな、近ごろは窪田正孝さんもすきな俳優さんのひとりになっている。後者は数年前にも1度観ていたからストーリーはすでにわかっていたけれど、いま自分がおかれている状況と重なる部分があまりにも多くて、当時とは受け取るものがだいぶ変わっていた。涙がでるほどつらく感じたのは、自分自身でもなんとか良い方向へ向かいたいからだと、そう思いたい。