ずいぶん暖かくなって半袖が候補にあがりつつある。クローゼットから服を選ぶときに白Tが顔をのぞかせると、雑誌でみかけた理想のコーディネートが頭に浮かぶ。白Tにデニムパンツをあわせて、シルエットや丈感でおしゃれさを際立たせたシンプルなスタイルだ。
2年前、ZARAでみつけた白Tが思った以上にしっくりきた。サマーセールのおかげで1000円くらいのプチプラ。何度も着まわすくらいお気に入りで大活躍してくれたアイテムだ。理想のコーディネートとして思い浮かぶ、モデルが着ていた白Tに似ていて、パーソナルカラー的に真っ白が苦手だったわたしでも着こなせたのがうれしかった。
翌年もZARAの白Tを着る気でいたが、季節をまたいで久しぶりに身につけると、生地が薄くなった気がする。追い打ちをかけるように襟がよれているのをみつけてしまい、わたしからの一方的な愛に疲れた様子だった
新しい白Tに買い替えよう、どうせならほかの白Tもみてみたいと考えていたとき、ユニクロの白Tがいいと聞きつける。雑誌だかSNSだか忘れてしまったが、着用画像にときめいたことは覚えている。早速アプリでお気に入り登録をしてユニクロに向かった。
目当ての白Tはすぐにみつかった。ものによって似合うサイズ感が異なるので、SとMの両方を手にとり試着室へと向かう。ZARAの白Tをきっかけに苦手な色を克服したのが自信となり、きっとユニクロの白Tも気に入るはずだと思っていた。
ボトムにインして形を整え前を向く。どうみても体育着だった。垢抜けには程遠い、まさに中坊が映っていた。ZARAの白Tを着ていたときは確かにカジュアルでヘルシーなお姉さんだったはずなのに……(脳内補正あり)。今から組体操でもはじめるのか? とまで思った。
鏡に映る自分の姿から、体育の授業を思いだす。学生時代はとにかく体育が嫌いだった。運動神経の悪さが露呈する公開処刑に等しい時間であり、何度もはずかしい思いをした。
体力測定のボール投げをするとき、出席番号順で最後だった。先に測定が終わったクラスメイトに見守られるように、ボール投げの位置につく。「飛んでくれ」と願いつつ力を振りしぼって思いっきり投げたはずのボールは、数メートル先でボトっと落ちた。わたしの思いを裏切るようにまったく距離が伸びず、クラスで最下位に等しい記録だ。これだけならまだいい、一部始終をみていたクラスメイトは、明るい声で「ドンマイ」と声をかけてくれる。顔をみることができなかった。
苦い記憶がじわじわと思いおこされると同時に、似合わない白Tが次第に意思をもちはじめ、体をゆっくりと締めつけていくような錯覚をもたらす。詰まり気味のネック、しっかりとした厚手の生地、漂白したような真っ白さ、体育着の要素を詰めこんだ白シャツに"着られて"いた。わたしではユニクロの白Tのよさを引きだせないんだとあきらめ、サイズ違いを試すことなく店をあとにした。
結局、その年の夏はしっくりくる白Tに出会えず今年をむかえた。2024年の夏は、運命的な白Tとの出会いがあるのか、はたまたZARAの白Tを買い直すことになるのか。次は祈るしかない。