数日間、様子見という名の現実逃避をしてきたが、ほぼ確信を得てきた。どうやら今、自分の身に起こっている症状はコロナの後遺症らしい。
ちょっと変だなと思はじめたのは、ゴールデンウィークの後半。ドライヤー後に決まっておこなう床掃除のとき、いつもより抜け毛が多いなと思った。そのときは「まあこんな日もあるだろう」と気にしていなかったが、翌日もそのまた翌日も、これまで経験がないくらい抜け毛の量が多い。ここからだんだんと不安が募っていった。
髪を乾かしているときだけではなく、シャンプー中もおかしかった。数本抜けるを通り越して、手のひらにもじゃもじゃと髪の毛の塊ができる。トリートメント前に髪の水分を切るため、ひとまとめにした髪を根元から毛先に向けてにぎるようにやさしく圧をかけていくと、数十本の束になって抜けていく。排水溝へと流れていく大量の髪の毛を呆然とみつめ、なにこれ、どうしようどうしようと恐ろしくなった。
突然大量の髪が抜けてしまう、さらに抜け毛の大半は育ちきっていないか細い髪だ。二十数年生きてきて、こんな経験は今まで一度もない。おかしなことが起こっているのは確かだった。
抜け毛が急に増えた原因を考えてみる。初めに変だなと思った日をふり返ると、ちょうどサイクリングに出かけた日だった。日差しが強い日で、日焼け止めをぬりなおしたにもかかわらず、うっすらと焼けてしまった。ぼうしを被らなかったので、強い紫外線に頭皮がやられてしまったのだろう。
月の物の前により、ホルモンバランスが乱れたのか影響しているかもしれない。「肌の曲がり角」という言葉があるくらいだから、いつもの違う症状がでるのも不思議ではないだろう。
栄養不足がたたったか? お気に入りのデニムがきつくなってしまったから、痩せなきゃと思っていたところだ。食事記録をつけていない分、栄養バランスのとれた食事ができているかどうか自信がない。そういえば噛む回数も前より意識しなくなった。噛む回数が減ったことで栄養の消化吸収が悪くなったのかも......
考えうる原因を洗い出し、どうにか自分を落ち着かせることに努めた。「この抜け毛は一時的なものできっとすぐ治まる」と。けれど、うっすらとどの原因も違う気がした。ごっそり抜ける光景を思い出すと怖くなり、ここ数日は外にでないのをいいことに、シャワーさえ避け続けた。
今日は検証の日だった。数日時間をおいたことで、きっと抜け毛の症状は抑えられているだろうと思った。そう思いたかったのだ。
しかし、変わらずごっそり抜けた。入浴前にブラッシングしたにもかかわらず、浴室でも抜けた。髪を乾かしたあとの床も悲惨だった。
もう逃げられない、きちんと原因を探ろうと思い調べていくと「コロナ後遺症」の文字が飛び込んできた。SNSで経験者の声を聞くと、そっくりそのまま同じ症状だった。コロナ罹患から2~3カ月後に発症するとのこと。症状が治まるまで、数カ月~半年、1年以上続く場合もあり、定かではないらしい。
絶望した。数日、数週間どころか月単位、最悪年単位で症状が続く。抜け毛がここまでストレスになるとは思いもしなかった。ただでさえ毛量が少ないのに、さらに減るなんて恐ろしすぎる。数週間前まで、薄毛の悩みは数十年先のことだろうと他人事だった。
とにかくできるだけ早く回復したい。「永遠に治らないということはない」という医師の言葉に少しだけ気持ちが軽くなり、できる限りのことをしていきたいと思った。
生活スタイルをふり返る。睡眠はしっかりとれているので、運動と食事を見直そう。
続けている筋トレにくわえて、無理のない程度にウォーキングをしたい。空気が澄んだ朝の時間、太陽の光を適度に浴びて体を動かすことでストレス解消につながりそうだ。
髪まできちんと栄養がいきわたるよう、たんぱく質摂取のためにプロテインをはじめる。納豆や豆乳などの大豆製品も意識したい。旬の野菜も積極的に食べるようにして栄養をとる。デニムがきつくなったのはとりあえず忘れることにしよう。
メンタルケアのために、入浴中とドライヤー後は抜け毛を凝視しない。仕方ないと割り切る。薄くなったらぼうしをかぶろう。できることを続けていけば、きっとよくなると信じる。
ここまで書いてきて、ちょっと泣きそうになった。ここ数回、手のひらに髪のかたまりができる度、脳裏に落ち武者が浮かんできた。怖いとしかいいようがない。
でもしょうがない。終わりはあるので、前を向くしかない。今まで以上に体調の変化に気を向けながら、無理せず・焦らず回復を待とうと思う。