日も落ち、足元暗く、建物の影がぼんやりと浮かび上がる帰路。
アスファルトの足元を辿るうち、ほつほつと白いものが落つのが、目に止まった。
桜だろうか。
今は真冬。咲くには早すぎるが、先日の小春日和の日に、寝ぼけた桜木がほのほの蕾を開かせているのを見た。
ねぼすけ仲間か。
思って白の足跡を辿り、ぼやけた顔を見ようと目線をちらと上げた。
と、瞬間。
ふくいくとした香が顔を包む。
あ、と気づき、ふた呼吸目に、そうだったと吸い込んだ香りをゆっくりと味わった。
梅の季節だ。
おんぼろのアパート横、雷の様に広げた腕いっぱいに咲くそれは
真冬を告げる、香り高き白梅だった。