『君よ憤怒の河を渉れ』(きみよふんどのかわをわたれ)という映画がある。
高倉健主演で1976年に松竹系で放映された、サスペンスアクションムービーである。
高倉健演じる現職の検事、杜丘冬人が無実の罪を着せられ、自身の無実と真犯人を捕えるべく奮闘するという話だ。
濡れ衣の着せられ方が、人混みの中で知らん人に突然
「この人お金とダイヤ盗んだ上にあたしを強姦しましたー!早く捕まえてーん!」と騒がれ、あれよあれよという間に強盗殺人犯になるという強引ぶりだが、大映ならそれもまたアリといったところだ。
テーマ曲が「ライラララーイ!」のみで歌い上げる謎曲であっても
健さん大ピンチのシーンで、なぜがお昼のクッキング番組のような曲が流れても
最後敵が見たこともないリコーダーみたいな武器で襲ってきても
健さんがゲキシブなので全て飲み込まざるを得ない説得力の大娯楽映画である。
わたしは映画の内容もさることながら、このタイトルが子どもの頃から大好きだ。
もともと原作小説があって、こちらは
『君よ憤怒の河を渉れ』(きみよ【ふんぬ】のかわをわたれ)
であり、映画化する際わざわざ「ふんど」と変えてあるのだ。
ポスターにもご丁寧にルビが振られている。
意味ありげ、というかもう、意味しかない。
「ふんどなの!わかった⁈」といわれて、全く分からなくても「う、うん、わかった」と言わざるを得ない力強さがある。
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他人が手がつけられないくらい怒ってるとき、みなさんは何を考えているだろうか。
もう怒れるご本人も、何で怒っていたか忘れているのでは、自分でも終わりどきが分からないのでは、というシチュエーションが人生でときどきある。
新宿駅のホームで、行き交う人々に怒鳴り散らかすおじいさんがいた。
嗚呼きょうも彼は、憤怒の河を渉っておられる、と思った。
またある日、ベローチェにて、当時流行っていた厚底ブーツを履いて、180cmくらいの身長になったギャルが彼氏に対して怒っていた。
パチこかれてホワイトキックでオーバー・ザ・フンドリバーなのね、と思った。
時は過ぎ、ソーシャルメディアが主流になり、見たくなくても激怒する他人のことばが目につく時代になった。
おおむね共感できる日常の怒りはさておき、もうキリンの首が長いのも、ポストが赤いのも、地球が勝手にまわるのも気に入らん!という思考の方々がいる。
これはまさに
憤怒の河を渉り隊である。
そういえば「うしろ髪ひかれ隊」に「時の河を越えて」って曲あったな。
関係ないけど。