おでんのことを考えていたら電話が鳴って「おでん!…っ!…おほん、お電話ありがとうございます」となった。今日は寒いから。こういうグッと冷え込むときには、途端におでんが恋しくなる。
家で食べるなら、透き通るだしのうまみがじんわり沁みてくる、うす口なタイプのおでんが良い。関西風というのだろうか。関西のひとはおでんのことを関東炊きと呼ぶと聞いたことがある。そのあたりの細かな違いなどはいまいち分かっていないが。
外に食べに行くなら、新宿にある「お多幸」というお店のおでんが断然好きだ。こちらは濃い醤油色。とは言えしょっぱいという感じはなく、コクと甘みのあるおつゆしみしみの具をぱくっ!と頬張ると、つい眉間に皺を寄せ旨いと唸ってしまう。なんともあとを引くし、酒も進む。〆には名物のとうめしをいただく。これまたおつゆひたひたのごはんの上におでんの具である豆腐が覆いかぶさるようにでん、と乗っている。小ねぎがぱらり。しみじみと幸せな気持ちになる味。ここまでなんとか辿り着きたいがあれもこれも食べたいものだから、なかなかどうして満腹になってしまうこともしばしばである。
愛媛に行ったときに入った老舗のおでん屋さんではふつうの辛子ではなく、辛子酢味噌が添えられていた。これがニクいのなんの。よもやこんなに合うというか、新たな扉が開けたようなちょっとした感動すら覚えてしまうほどでした。
大人になってから好きになった具材はつぶ貝。日本酒と合うんだなあ。子供の頃はそんな具材があるなど知る由もなかった。家庭料理ってそういうところある。独自のカルチャーが凝縮しているから、何気なく人と話していても当たり前と思っていたものが覆されたりしてカルチャーショックを感じたりする。おもしろい。
最近行った国立科学博物館の「和食展」でもそういうところに特に興味をひかれた。その土地それぞれで採れる食材や、地理的気候的な条件などの風土によって育まれてきた郷土料理たち。この日おかげで分かったことに、父親が昔からグリーンピースの卵とじを好んでいた由来がある。私は赤ん坊だったので覚えていないが、まだ祖母が生きていた当時帰省すると必ずと言っていいほどグリーンピースの卵とじが食卓に並んだらしい。母にとってはなぜかやたら出るメニューだなと思うくらいの地味な料理。そして自宅でも食べたいと時々父から要求が出る料理。件の和食展にて、47都道府県別にクックパッドで検索される料理や食材などの上位5つが掲示されているのを流し気味に見ていたら、父の出身である和歌山が目に入った。その第一位、うすいえんどう(グリーンピース)。注釈に、うすいえんどうは和歌山の野菜とある。ふーん。、、、!そういうこと?!ははんと謎が解けたような、そして母にそのことを話してなんとなくふたり可笑しくなって笑ってしまった出来事である。
と、話が変わってきたがここまで考えているうちに、そんな興味関心が自分の仕事にも合い通じることに気がついた。コーヒーという、産地のテロワールによってあらわれる様々な風味に日々、魅了されているわけで。その土地ならでは、その人ならではの、味。鶏が先か卵が先か。どちらにせよ、こうして繋がりあっていたことにうれしさと納得を感じる。
おでんからすっかり離れてしまったけど、書きながら考えて、考えながら書いているうちに着地したところが思ってもみなかったところだから、やっぱり書いてみてよかったし、これからも何かとそうしてみようと思う。こねて、まとまり、深まり、飛んで、ひらけて、しずかなインターネット。