えのき

yonyon
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いつか友人と喋っていた時のこと。「え?ちょっと待って。えのきの発音おかしくない?」と話を遮られた。生まれてこのかたずっとこの発音で来たのだが?と思いながら改めて言ってみる。

「えのき↓だけど」

「えのき↑でしょう」

文字だと伝わりにくいと思うので分かりやすいよう例えるなら、私の言うえのき↓は猪木と同じ、友人の言うえのき↑は佐々木と同じイントネーションになる。「だってえのき茸のえのき↑だもの」と友人。ふうむ、言われてみれば確かに説得力の高い説明。会話の中でえのきという言葉が出てくることはあまりないけれど、気に留めて聞いていれば、みんなえのき↑と言っているように思えてきた。私たち家族はずっとえのき↓だというのに。

というエピソードを思い出しながら、えのきを豚肉で巻く。えのきという食材は鍋もの汁ものの他には意外と出番が少ない。というか私にはレパートリーがない。先日湯豆腐に使って余っていた残りのえのきをどうしようかと考えて、肉で巻いてみた。肉巻きの包容力よ。すべては肉に巻いてしまえば一件落着。あれから時々は意識してえのき↑と呼ぶことも多少あるのだが、やっぱり慣れ親しんだえのき↓がしっくりくる。この文章を書きながらも心の中で読み上げるとき、どうも自然とえのき↓と言っている。