法事で小さな集まりがあった。帰りしな、伯父がみんなへお土産にと「くるみっこ」をくれた。横浜に住んでいる伯父にとって定番の土産ものとして、何かとこの鎌倉銘菓くるみっこを貰ってきた。それまではなにとも思わなかったが、今回ばかりは即座に(あ、)と思った。平山の好物だ。平山とはこの冬上映しているヴィムヴェンダース監督作品「PERFECT DAYS」の主人公である。とは言え鑑賞している時にはそれだと分からなかった。2回目に観に行ったときに買ったプログラムを読んで、あれはくるみっこだったのかと知ったのである。
私にとってPERFECT DAYSは人生の一本となったと思う。それほどこの静かな映画に心揺さぶられ、長い余韻に包まれている。劇中でくるみっこが登場するのは、平山のもとに転がり込んできた姪を、彼女の母である妹が迎えに来るシーン。この場面の人物たちの心持ちの絶妙な塩梅を俳優たちは見事に演じていて、言葉じりに滲むニュアンスや表情、空気から、ああ、とこちらまで心が軋む。家族だけど、家族ゆえに、愛はあるし、隔たりはある。そうして平山のバックボーンが大きく浮かび上がるキーとしてのくるみっこ。それを伯父が、姪である私にくれるというそのことに、楽しい偶然性を味わった。
映画を観たのかと伯父に聞けば、なーんだ、観ていなかった。「最近やけに品薄なんだよな。なかなか売ってなくて、ちょうど工場直売所の近くまで行ったからのぞいてみたらあったんだよ。でもみんなの分買おうとしたらひとり二個までですって言われてさ。仕方ないからそれだけ買って、近くで用事を済ませたあともう一回行って買えたんだ。特別おいしい!ってもんでもないけどさ、食べたくなるんだよね」そう話すのを聞きながら、もしかしたら映画効果でみんなが買い求めているのかなあとぼんやり思った。伯父にはぜひこの映画を観てほしいと伝えた。
そんなに多くを話したことはないが、親族の中でいちばん趣味が合うのが伯父だということはここ数年でわかったこと。フィルム写真が好きだと言えば、使わなくなったフィルムの一眼レフを譲ってくれたし(最近は重くてなかなか持ち出せていない)、落語を聴いていると言えば「これはまだあげられないけど貸してあげる」と昭和の名人たちのCDを何十枚とどっさり持ってきてくれたり(長らく借りっぱなし)、季節の果物でジャムを炊いてはお互いにプレゼントし合ったり(伯父からもらう頻度の方が圧倒的に多い)。凝り性で、しかもかなりまめなところは似ても似つかないのだが、両親よりも好きなものは近しくて、そういう伯父がいるということは嬉しいものである。