イギリス人の患者/マイケル・オンダーチェ

夜雨
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公開:2025/10/25

イギリス人の患者/マイケル・オンダーチェ/創元文芸文庫

第二次世界大戦末期のイタリアが舞台。廃墟となった尼僧院で看護婦のハナが全身に酷い火傷を負ったイギリス人男性の世話をする。ハナの父親の知り合いである泥棒のカラバッジョ、爆弾処理をする工兵キップも廃墟で暮らす。四人での生活は静謐で危ういバランスの上に成り立つような緊張感がある。

それぞれの過去が入れ代わり立ち代わり語られる。重ねられるヴェールのように、崩れ去る砂丘のように

過去が層を成し、やがて一枚の地図を描き、彼等の不思議な繋がりが浮かびあがる。

時系列が意図的に入れ替わっているために物語に入り込むのに時間がかかってしまったが、詩的な文章は美しく、読み応えがあった。

原爆投下のニュースを聞いて取り乱すキップがやや唐突に感じられて少し違和感があったものの、全体的には面白く読んだ。

@yosame0619
一次創作/二次創作/字書き/30↑/三度の飯より本が好き