
聖母/レオポルド・フォン・ザッハー=マゾッホ/中央公論新社
19世紀のウクライナが舞台。
ソリスコ村に住む農夫・サバディルが森の中で会ったのは絶世の美女マルドナドだった。彼女はユダヤ教、キリスト教にも帰依せず、自ら神の代理人「聖母」として民衆に君臨し、崇められていた。
彼女の威厳ある美貌に酔いしれ、惑わされている人々を見ると「美しさ」というのはあらゆる理屈を捩じ伏せる権力であると感じた。マルドナドなこそが偽預言者であり、男も女も弄ぶ悪魔で愛も富も貪る卑しい人間であるのに、圧倒的な美しさの前ではそんな罪悪すら無に帰してしまう。そういう意味では「美」は「善」なのかもしれない。
大食漢のお調子者スカロン、私こそが預言者だと言い出す未亡人フェーヴァ、多情な人妻ソフィア、狂信者入り乱れての混乱は読んでていて面白かったです。
マルドナドを愛したばかりに十字架にかけられてしまったサバディルが哀れ。