賢い血/フラナリー・オコナー

夜雨
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公開:2025/7/11

賢い血/フラナリー・オコナー/グーテンベルク21

電子書籍で読了。軍隊から戻ってきたヘイズに残されていたのは亡き母の箪笥だけだった。彼は新しい教会を設立せんとして「キリストなき教会」の説教師として中古で買った車のボンネットの上に立って説教をする。

登場人物全員がどこか胡散臭く、影を背負っていて何かの病に侵されているよう。主人公であるヘイズは守り抜いてきた純潔(清潔)すら捨てて自ら堕落し、堕落することでキリスト教の言うところの罪が存在しないことを証明しようとする様は、イエス・キリストを全く信じていないというよりは、寧ろどこかで信じたがっているようにすら見えてしまう。ヘイズが本当に信じたかったのは唯一絶対の真理であり、彼はそれを手に入れるために失明を選び、己の肉体を傷付けていく。傍観者である宿の女主人はヘイズを見て初めのうちは不審に思っていたものの、次第に彼の中に不思議な魅力を感じて何くれとなく親切に振舞っていくが、2人の関係性は何かひとつの宗教のように思える。ヘイズは盲目になり、体に鞭打つことでイエス・キリストになったのだ。

この作品は酷く乾いていてブラックユーモアと暴力に溢れ、どこまでいっても救いがない。だがこの陰鬱な暗さにずっと浸っていたくなってしまう。

タイトルの「賢い血」も秀逸で、個人的な解釈としてはヘイズが求めてやまなかった「真理」、あるいは人の中にある聖なるもの、善なるもの、良きもののことだろう。私達は本当は「賢い血」をその身に持っているが、俗悪、悪癖、悪徳の血に紛れてしまって見えなくなってしまっているのだ。

@yosame0619
一次創作/二次創作/字書き/30↑/三度の飯より本が好き