
人工の冬/アナイス・ニン/水声社
ヘンリー・ミラーとその妻ジューンとの不思議な三位一体恋愛関係が元と思われる「ジューナ」、20年振りに再会した父と娘の愛を描いた「リリス」、ジューナもリリスも訪れる精神分析医との物語「声」を収録。発表当初、アメリカでは性愛の描写が引っかかり発禁扱いとなったらしいが、読んでみると露骨な描写はないので一体どうして?と少々首を傾げてしまう。スキャンダラスなのは精々同性愛を扱ってるところや父親との危ういような愛情関係だろうか。
物語を描写する文章はシュルレアリスム的でイマージュに溢れている。特に精神分析医が登場する「声」が顕著だ。現実から非現実へ、夢から幻想へ、そしてまた現実が顔を出し、瞳を開けたまま夢を見ているように錯覚してしまう。
アナイスが紡ぐ物語は大抵が自身の日記が元になっているので、物語をより深く読み込むには彼女の日記を読む必要があるだろう(彼女の日記は15巻出版されている模様。しかし日本では3冊のみの出版に限られているらしい)。
彼女の瑞々しく、繊細でありながら勢いのある文章がとても好み。日記も2冊積読しているのでそのうち読みたい。