
エルサレム/ゴンサロ・M・タヴァレス/河出書房新社
長らく積読しててやっと読んだ。何だか凄い作品を読んでしまった感じ。
タイトルは旧約聖書詩篇「エルサレムよ、もしも、わたしがあなたを忘れるなら、わたしの右手はなえるがよい」から。
統合失調症を患い、かつては精神病院に入院していたエミリア、同じく患者のエルンスト、エミリアの前夫テオドール、エミリアとエルンストの息子カース、戦争体験者ヒンネルク、娼婦のハンナ、精神病院の院長ゴンペルツをそれぞれ軸に悲劇の5月29日を描く。時系列は意図的に入れ替えてあるものの、パズルのピースがひとつひとつ揃っていくようで面白く、それが物語の緊迫感を高めていく。
登場人物たちは皆、心身共に痛みを抱え、どうしようもない傷の前で立ち尽くす。癒えることのない傷はそのまま彼彼女達の十字架であり、慣れ親しんだ痛みは時に安息の地となる。
この物語を支え、描写する言葉たちがとても好きだ。全体的に重苦しい物語であるが、その苦しさと暗さこそがこの作品の醍醐味であり、何か人知れない傷口の中を覗くようで不思議な心地良さと戦慄を覚える。