
狂女たちの舞踏会/ヴィクトリア・マス/早川書房
19世紀末のパリ。実在する精神病院が舞台。
霊が見えると告白した上流階級の令嬢ウジェニーは父と兄によってサルペトリエール精神病院へ入れられてしまう。精神病院は精神に異常がある女性の他に男や世間にとって不都合な女性を閉じ込めておく監獄でもあった。そんな病院でウジェニーは科学を信奉し、威厳に満ちた看護師ジュヌヴィエーヴと出会う。ウジェニーの「霊が見える」ことが本当であること、彼女が全くの正常であることを確信したジュヌヴィエーヴはウジェニーを病院から逃がそうと計画する。
本作は実在の精神科医や史実を交えながら描かれた物語だが、いかに女性の人権が蔑ろにされてきたかが垣間見えて胸が苦しくなる。
神を信じず、合理的なものを信じて生きてきたジュヌヴィエーヴがウジェニーと出会うことで変わっていく様子は感動的で、それだけに結末が少し悲しくもある。でも彼女は精神病院の中で暮らし初めてやっと「目に見えぬものの存在」を心から受け入れることができたのは、亡くした最愛の妹をもう一度取り戻したことと同意義であり、ある意味では幸せでもあっただろうと思う。