
夜はやさし/F・スコット・フィッツジェラルド/ホーム社
ずっと気になっていたフィッツジェラルドの「夜はやさし」のオリジナル版をやっと読了。全564ページに及ぶ大作。
女優であるローズマリーが魅力的なダイヴァー夫妻とリヴィエラのビーチで出会うところから物語は始まる。18歳のローズマリーから見てディックは完璧な男だったし、周りもそう思っていた。しかし年齢を重ねるにつれて彼が持っていた魅力は薄れ、その人生すらも破滅していく。何か決定的な出来事があったわけではない。寧ろその「何か」が無かった故に彼は日々に倦み疲れてしまったのだろうと思う。
妻であるニコルが父親との関係により統合失調症を発症し、ディックは彼女の担当医でもあったことから2人の関係は通常の夫婦関係より難しい部分があったように感じた。
陽気で誰にでも優しくて愛嬌もあったディックが少しずつ変容していく様は取り返しのつかない病に蝕まれていくようでもあり、人が老いていくのはこういうことなのだとまざまざと見せつけられるようでもある。どんなに頑なでも人は時と共に変わらざるを得ない。それが悲しく、寂しい。
この作品を発表した当初はあまり良い評価を得らず、改訂版を出したそう。私は改訂版は途中までしか読んでないが、オリジナル版の方がより重厚感があって良いように思う。村上春樹も巻末に寄せた文書で本作は色々欠点はあるものの、それ故にのびしろがあり、器量のある小説だと言っている。
この作品は若い頃に読んでもあまり響かない作品かもしれないが、ある程度歳を重ねた時期に読むと主人公と自分が重なって見えたり、彼の気持ちに共感できるようになるのではないだろうか。この作品を楽しめるのは成熟した大人の特権なのだ。