
むずかしい愛/イタロ・カルヴィーノ/岩波文庫
12編から成る短編集。列車の中で未亡人と密やかに戯れる(犯罪すれすれ)の兵士、海水浴場で水着を無くした夫人、反写真論を掲げていた写真家、不倫する妻、生活がすれ違っている夫婦など登場人物達はごく平凡でなんてことのない人々だが、それらをドラマチックに描き出しているのは流石。
本作は「愛」と銘打っているが、それらしい話はなく、精々夫婦の生活を描いた「ある夫婦の冒険」と不倫する妻の話「ある妻の冒険」くらいだろうか。訳者あとがきによればカルヴィーノは「愛の不在」を描くことで「愛」を描写しようとしたらしい。この考えは判る。紙の上に影を描くことで光を描くのと同じだ。一口に「愛」とは言っても色々あるし、その形は様々だ。愛が何であるかを理解しながら、しかしそれを明確に言い表せないことに愛の深みがある。カルヴィーノはそれを良く知っていたから「愛の不在」を描くことで「愛」を表現しようとしたのだろう。
どれも面白く読んだが反写真論を唱えていた「ある写真家の冒険」は何だかんだ身につまされるような部分があり、一体何のために写真を撮ってSNSに投稿するのかを考えてしまった。