なんとなく染めていた
30代後半から、ヘアサロンへ行く都度、「髪は染めないんですか」と美容師に訊かれていた。
「はい、染めません」と元気よく答えていた。
それが、40歳を過ぎたあたりで、好きな人ができて、なんとなく白髪を隠したくなった。
当時通っていたヘアサロンで、初めて「白髪を染めたいんです」と言った時のことを覚えている。
その時まで毛染めをしたことは一度もなかった。
終わらないマラソン
白髪染めは終わらないマラソンのように感じていた。
ヘアサロンで染めてから日数が経つとだんだん白い毛が目立ってくる。
もみあげに染め残しを見つけて、直してもらいに行ったこともある。
そのくらい神経質になっていた。
髪が短いので、1ヶ月に一度は必ずカットとカラーをしていた。
顔と髪のアンバランス
顔つきはそれなりに歳をとっているのに髪だけ黒々としている、そんな自分に違和感をおぼえていた。
生きている限り歳をとって、体つきも顔も年齢なりに変化していく。
それなのに、髪の毛だけ歳をとっていないかのように見せ続けることに限界を感じていた。
抗がん剤治療の副作用
好きな人と結婚して3年目、2020年の初頭にがんが発覚した。
手術を受け、その後の抗がん剤治療で体毛が全て抜けた。
生きてさえいれば髪はどうでもいいと思った。
かつらを買ったものの、やはり黒々とした毛をまとうことに違和感があり、どうしてもかぶることができなかった。
毛がない間は帽子をかぶっていた。
新しい髪
抗がん剤治療が終わって、しばらくしたら新しい髪が生えてきたので、もう染めるのはやめることにした。
新しい髪の毛はなんだか細くて、くるくるしている。
以前とはすっかり髪の質が変わった。
せっかく生えてきてくれた自分の毛と、それを支える地肌に、毛染めで負担をかけたくなかった。
現在——気分がとても楽になった
髪型は以前よりももっと短いベリーショートにした。
こめかみの部分だけ白い毛がかたまって生えていて、見た目上ひとつのアクセントとして効果している。
職場の人から何か言われたことはない。
一度、社外の人と会ったときに少しぎょっとされた。
でも、その人からも何も言われていない。
月に1度、美容室で必ず染めていたのをやめて、経済的にとても楽になった。
年齢より若く見られたいという考えはない。
気分もとても楽になった。