電子書籍にはハイライト機能がついている。
読んでいて「これは」と思った行を選択し、保存ができるのだ。
紙の本を閉じてこないように手で押さえながら、あるいは書見台に固定しつつ抜き書きすることを考えるとずいぶんらくちんだ。
しかし、ハイライト機能には余分なおまけがついている。
まったく解せぬ。
なぜそうなっているのか。
やめてほしい。
そう、「86人がこの箇所をハイライトしました」と小さな字で書かれており、すでにその箇所に傍線がひかえめに引かれているのだ。
そんなことはちっとも知りたくない。
私は私が「これは」と思った箇所をハイライトしたい。
だのに、既に傍線が引かれ、そのくだりに注目した人数まで記されていると、他の人もそう思ってるのか……じゃあいいや……と遠慮してしまうではないか。
私のこのひねくれた性格よ。
その機能をオフにすればいいのか。
と思って電子書籍リーダーのヘルプを参照しようとしたらWi-Fi接続がなくて読めなかった。
気が狂いそうだ。
きょう、『アンナ・カレーニナ』を読み始めて、書き出しの一行目から既に見覚えがあるほど有名で、他にも人間に関する深い洞察が地の文のあちこちにみられるようだ。
それらを覚えておきたいのに他の人がハイライトしているからいやになってしまった。
なんでそんなに他の人の存在が気になるだろう。
読書が個人的な体験だからだろう。
そして私はもう一つ気づいた、読み放題で読めるのはアンナ・カレーニナの1冊目だけだ。
こんなおもしろい小説の続きを読まずにいられるだろうか。
Amazonの術中にからめとられた。
他にライブラリにキープしてある『失われた時を求めて』も、ドストエフスキーの『悪霊』も、ぜんぜん1冊では完結しない。
そして続刊は無料では読めない。
うう。
借りるだけなのにお金を出すのがいやになっている。
たまに古書を買ってペンで傍線が引かれているとすごくいやな気持ちになる。
それと似ているだろうか。
私は、私の読書はまっさらでないといやだ。
どっかで設定できたはずなのだ。
これは即刻オフにしないとだめだ。
どこの世界に
おっ、みんながここをハイライトしているんだな。じゃあ僕もハイライトしちゃうもんね。
と、喜々としてスクリーンを長押しするやつがいるというのか。
みんなといっしょでうれしいななんてことは絶対にない。
ことこの話に限っていうと、それは断言できる。
少なくとも私は。