亀川千代さんのたたずまいと、亀川さんのベースギターの演奏がとても好きだった。
1994年ごろから1996年ごろにかけて、亀川千代さんが加入していたゆらゆら帝国というバンドのライブに足繁く通っていた。
吉祥寺のMANDA-LA2というライブハウスで月に1度くらいワンマンライブをゆらゆら帝国が企画していて、そのころはまだ客席にテーブルと椅子があり、なにか飲みながらゆっくり見ることができていた。
開場前、ライブハウス前に並んでいるとリハーサルを終えた亀川さんがふらっと出てきて街へ消えてゆく姿を見ることができた。
録音されたロックバンドの演奏と、じかに会場へ行って聴く演奏の違いは、ベースギターのサウンドだと思う。
会場にいると、ベースの低音の響きをおなかで感じることができる。
でも今はもう、どのライブハウスへ行っても亀川さんがベースを弾く姿を見ることはできないし、その音を体感することもできない。
当時は亀川さんはチェリーレッドのSGベースを弾いていたと思う。
坂本慎太郎さんのSGとおそろいでかっこよかった。
私は現像所で夜勤を始めてライブハウスにあまり行かなくなった。
そうこうしているうちに気づいたらゆらゆら帝国はメジャーデビューしていた。
小山田圭吾さんに激賞されたこともあってどんどん有名になった。
短い期間だったけれど、ゆらゆら帝国のライブをほぼ全部聴きにいっていた経験は私の中で大きい。
亀川さんがどんな声でどんな話し方をされる方なのかはまったくわからなかったけれど、演奏はたくさん聴けた。
笑った顔を見たこともなかった。
SNSに投稿されていた訃報を見て、初めて亀川さんの年齢を知った。
演奏の前に指と指の間を入念にひろげ、指板にはスムースフィンガーのスプレーを必ずかけていた。