とうもろこしを調理しようと思って袋から出したら虫がいた。
黄緑色のいもむしだった。
どんな発音だったかは思い出せないのだが、なにしろ、ノイズキャンセラを用いて家計当座帳をつけていた夫が、それを耳から外してすぐにやってきた。
要するに私が虫におどろいて悲鳴をあげた。
近所にもきこえただろう。
すまぬが、君ととうもろこしはここまでじゃ。
と、夫はいもむしに語りかけるとむしをティシューペイパーにのせて1階へゆき、建物の玄関から外へ出て手近なよその花壇にむしを放してやった。
野菜室の中で木曜の午後からどうやって生きていたのだろう。
きょうはそれ以降、私がとうもろこしに触れることが非常に困難になり、調理を夫にやってもらった。
こわかったのだ。
ひげの部分になにかくもの巣みたいな糸がわさわさしているなあとぼんやり考えていたら突然視界の中でなにかが動いたのだ。
農薬にも出荷作業にも梱包にも配達にも野菜室の低温にも耐えたのに、ひどくこわがりな人に見つかってしまったのがうんのつきだった。
夕飯を食べたとき、
あのむしはどうしているだろうね。どこかの葉陰でうまくやっているかなあ。
と私がつぶやいたら、夫は、
すずめに見つかっておだぶつじゃ。
と、見解を述べていた。