この小説が出版されたのは1932年ということだ。
1932年というと私の母が生まれた年だ。
すなわちすごい昔だ。
母が42歳で私を生んでその私が今年で50歳なのだ。
それはいい。
この本は新潮でも岩波でもなく、光文社から出版されたものを読んだ。
電子書籍読み放題サービスにあったからだ。
解説がよかったし、訳者あとがきもものすごくよかった。
読みながら感じていた謎が数々解決された。
人間はすごい。
1932年にこんな物語が書かれていた。
南北戦争の記憶もまだなまなましい当時のアメリカだからこそこのような物語が生まれるのだ。
このストーリーテリングは、転がり出した車輪がどんどん走り出してやがてそのまま走り去ってしまう。
ほんとうにこれを読めてよかった。
たぶん訳も現代風で読みやすかったと思う。
現代風も何も描かれている文物は古いのだが、筆致が古くなかった。
今も昔もアメリカはすぐ銃を持ってきて撃ち殺す。
私はそんな印象を持った。
内戦がそのことに影響しているのかもしれない。
銃と死がわりとすぐそばにある感じがする。
登場人物が一筋縄ではいかないやつらだった。
タフな世界だ。
人が作ったお話で知らない人の人生を体験できるのはすごい。
アメリカ南部の人種差別とひとくちに言っても、こんなに宗教じみたがんじがらめのものだとは思っていなかった。
これはたいへんだ。
ほんの1世代前まではこんな世の中だったのだ。
いまもたいして変わってはいないだろうと思ってしまう。
私は人の執念ということを感じた。