観た日 20230510
映画『ウィ・シェフ!』めっっっちゃ良かった…! テレビに出まくる有名レストランのオーナーと衝突し、自ら辞めたシェフのカティ・マリー。自分の店を持ちたいが先立つものはなく、未成年の移民保護施設の厨房に再就職することに。自分を曲げないカティのとんがりが一人の移民の少年を傷つけ、それぞれに得意とするもの(料理とサッカー)を軸に仲直りしたことで物語が大回転を始める。彼らは大人に裏切られてきたと少年たちの人生を守るために手を尽くす施設長、ふっくらふっくらの見た目と精神を持つ施設員、新しいことを吸収して人生に希望を見出すすぐの将来に国外退去が待つ子どもたち、ヨーグルトのCMに出たことが自慢のカティの友人の俳優が主役で、そうした設定を余さず物語に練り込んで、チーム一丸になる楽しい夢を見せながら、それだけでは救われない子どもたちの人生を強調し、現実の移民が現実でどのような目に遭っているのかを突きつけてくる。そしてその現実を変える手段はある筈だと訴える作品。
構成がウメー!と興奮したのは、途中でカティ・マリーのルーツが語られるシーン。カティがオーナーによる変更を許さず辞めるきっかけとなったメニューは彼女が養護施設にいた頃に教わり、自立の道を拓いてくれた大切な思い出。そのメニューを、古巣のレストランに今のキッチンチームの少年たちを連れて行って食べさせたことから、彼ら一人一人のルーツが開示される。「移民の未成年」という塊がほぐされ、個人になり、フランスにおける移民の現実に映画の焦点は移る。物語の始まり、“カティ・マリー”の始まり、一人一人の始まりが絡み合う構成がほんっと凄かった。「白人が黒人を救う」ストーリーは嫌だな…と途中まで警戒はあったが、ラストの料理の見せ場でカティ・マリーは不在(別の場所で見守る)に。シェフに鍛えられたチームが自分たちだけでレストランをやりきる。全国生放送で。退屈だからと放映を除かれる対抗者、永遠に流れるファトゥのCM、マイクを離さないサビーヌなど笑いも満タンに、やったね!の雰囲気をこれでもかと見せつけて、最後の一歩手前にもう一度、移民には国外退去の道が敷かれていると観客の意識を現実に呼び戻す。そしてさらにもう一度クスッと笑える場面で締める。
現実の過酷さとフィクションの希望を密着させて、フィクションとして提示された希望が現実になることを訴える作品だと思った。例えば彼の頬に描いてある国旗が示す国名を知らないとか、日本でだって同じくらい人の生き方を奪うことが起きているとか、色々な反省とともに観た。