映画『密輸1970』

四折
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公開:2024/7/15

方々からシスターフッドの呼び声高く聞こえて来て、興味を引かれて観てきた。結果、元気になりました。

一度裏社会と関わったら逃れられないという姿勢は貫かれていて、どうサバイブするかという緊張感は常にあったのでハラハラし通しだったが、段々手慣れてくるラストバトルにやったれ!!と高揚し、最後の船べりに流れる歌と楽しげな海女達の様子が実に爽快だった。まばゆい孤独!

化学工場の排水によって貝は汚染された。食っていくために税関にバレないよう投じられた密輸品の箱を回収する違法行為に着手する海女達。手にした金を服に車にパーッと使うパチパチ弾ける明るさから一転、金塊の密輸という“一大事業”が発覚し、摘発されて刑務所に送られた船主の娘ジンスク。彼女の親友であり姉であり妹であったチュンジャはひとり逃げ延びる。そのチュンジャが裏切って税関を呼び寄せたのだという噂が流れた三年後、ソウルの密輸業界の大物に首ねっこを掴まれたチュンジャが「帰郷」。しかしひっそりと、男達が仕切る「船」を転覆させる計画を彼女達は練り始める。というあらすじ。

冒頭の、まだ密輸に頼っていなかった頃の二人が海中で、上昇と下降のすれ違いざま、お互いに向けて伸ばした手をぐいと掴み、その推進力で先へと進む光景が見事だなと思っていたら、ラストバトルで再演されて心の中の膝を打ちました。そりゃこんないい光景が一度限りな訳がないわ。

お前は顔だけだと蔑まれ、男を利用し男に殴られる、水商売系で働くオップンが度胸も胆力も人一倍に(そうでなかったらあの若さで店を買えないだろう)海女達の仲間であり続けたのがチョーよかったです。明らかに男からも女からも馬鹿にされやすい・されてきたキャラクターの型と外見を持たせた上で、彼女自身の個性を描いてみせる。

実際にサメの被害が出ている水域に潜って密輸ダイヤを取って来いと男達は海女達に命じる。金がないなら犯罪をするしかないと、身を隠す前のチュンジャが語る通り、この作品において人命は指先につまめるダイヤ一粒の重さにも及ばない。それも命を賭けるのは深く深く潜る海女達で、男達は船の上から見ていればいいのである。

これも途中、密輸の大物クォンから、チュンジャに対して立場を弁えろの意で「上と下」というセリフが出てくるのだが、船の上の男・海の下の女という立ち位置が、彼女達自身によってひっくり返されるのが本当に愉快痛快。

クォンとチュンジャが肉体関係を持たず(だと思うんだけど)、水に濡れる女性達の身体を扇情的に見せることなかったのもよかったっす。暴力をわきに置けば、安心で出来た画面だった。

クォンと護衛さんの関係もよかったね…。ベルトでナイフを研ぐところや、チュンジャがホテルを訪ねた際にソファでスタンガン?か握力増幅器?か握りながら流れる曲に身を任せていたシーンとか。二人で完結するホモソーシャル。暴力と犯罪が他者に向かなければ尚よいのだが、退役軍人のその後の暮らしの立ち行かなさの象徴でもあったのかな。

そういう意味で、事の黒幕が一見仕事熱心であった税関係長というのはよく出来ていた。時は民主化前。国家に法に逆らうなと繰り返されても、国家や法が暮らしを守ってくれないなら空言でしかない。

もちろん何でもかんでも逆らえばいいという話ではないが、生きるために連帯し、力も知恵も使って立ち回る女性達の格好よさを堪能した。

@yotsuori
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