1.『熊と小夜啼鳥』20221208
熊と小夜鳴鳥がオモロ&好みすぎてちょっと戻って来れない…。冬の王やドモヴォイなど、昔話の精霊(チョル)たちが実際にヒトの隣人である世界観で、でも地球環境としての世界はジョチ・ウルス(昔学校でキプチャク・ハン国と習った場所)がルーシを領していた実在の時代。その混ざり具合がとても上手い。これまでもヒトが「古きもの」への関心を失うことで「古きもの」達は消滅するファンタジーは読んできたが、コッチとアッチに居場所を分けない物語は更に好き。そして昔話のモチーフを敷き詰めているので「邪悪な継母」とその言いなりの「邪悪な継娘」も設置しつつ、邪悪に描かないところがサイコーです。娘の方は子どもで母親の歓心が欲しい年代だし、しかし周囲の影響も受けているので主人公に辛く当たる役どころに置かれない。母の方も実は精霊を見る力を持っているが、精霊のことを教わる環境になく、またキリスト信仰の教えによって自分だけに見える何かは「悪魔」と名付けられてしまう。「悪魔」を見て怯え騒ぐ女を周囲は持て余すそのように自分のことを聞いてもらえない生活に蝕まれてきたと物語は示す。主人公には確かに辛く当たるので好きにはなれないものの、昔話の「邪悪な継母」をそのまま物語に反映させないことで「狂女」という言葉の背景へ読者の目線を伸ばさせる。現代に書かれる時代物としてすげえいい作品でうれし〜。
熊と小夜鳴鳥、心底魅了される物語でした。この世界があと二巻分も読める。家の妖精たちを愛し友とする主人公が途中で馬屋の精霊から馬の言葉を教わり、話せるようになった時、ウマから話せるヒトへの感情が「ヒトっぽい同族」扱いなのがすげ〜良かった。ランドリオールの馬が好きな人にも読んでほしい。
3.『魔女の冬』20231207
キャサリン・アーデンの新刊に唐突に現れた殺伐BLが美味すぎて読みながら混乱の極みだった。しかしコンスタンチンのこと、俺は嫌いなんだ……。憎めないやつと見ることは出来ない。いやホントこの殺伐BLがすごい2023で頭がいっぱい。今年ほかコンテンツで殺伐BLを摂取していないせいもあるが、潤っちまった…。お互いが己の利益のために共犯関係になることを選んだ神の声が聞こえずならば自分が人民を“導く”と支配を振りまく美しき司祭コンスタンチンと、彼から悪魔と呼ばれ恐れられる混沌の精にして恐怖を撒き散らす夏の熊メドベード。元は神の声を聞きたかった司祭に聞こえるのはおしゃべりな悪魔の声だけ。しかし悪魔を招き寄せたのは司祭の清貧の聖職者ならぬ支配欲への渇望、己の正しさを証明したいという欲である。コンスタンチンは主人公ワシリーサにとってシリーズを通した敵であり、彼女を辱め、命の危機にも晒す男である。最悪だなこいつ…と読者が苦々しく思うキャラクター配置だったのにさあ、半ば自分の理解者かと思われた悪魔が実は自分に嘘をついていたと判明するや、自らの死でもって報復するんですよ。そしてメドベードはその死に縛られる。コンスタンチンが創り出すイコンに込められた感情の激しさを美しいと感銘を受けたから。自分に美しさを感じさせた魂の死を認められず、死を無かったことにできる力を持った憎い兄にすがるシーンを読んでくれ……。同等の共犯者と信じこみ、自分の理解者かもしれないと信じこみ、恐れの対象ではあるが他の人には言えない望みを話し合ってくれる相手であり、といった「悪魔」メドベードが自分を裏切っていたと思い知ってから取った行動がさあ、本当にさあ。お互いに相手へのひとかけらの愛があるのでBLなんだよな………。まあこの関係性に萌えたからってコンスタンチンのことを好きにはならないんですが……。民話&歴史ファンタジーとしてシリーズ通してとても楽しめた。人生をともに旅してくれる馬がすてき。(人間にとって)良きにつけ悪しきにつけ妖精には妖精の生き方があり、そちらにどんどん近づいていったワシリーサが人間の心を持ちながら肯定的に社会でいけないものとされている「魔女」の自認を引き受けていく物語だった。