チンッとエレベーターの音が鳴る。
「あぁ、オレの番かな~?」
「…案外早いじゃないか、」
ガートルードが開閉ボタンを押す、 「どうぞ、ケルペンコッホ」
「またね、ケルペンコッホ…」
「うん、みんなもまたね~、オレは今日もしあわせだったよ~」
「はぁ、いつもだろ…」
「ハハ、幸せでよかったよ」
「貴方様の因果の星も喜んでいますわ。」
「じゃあ、あとはお願い。」
閉まるドアの間からケルペンコッホが笑顔でこちらに手を振っている、三人も微笑みながら手を振り返した。
「彼奴がいないと静かでいい。」
「ふふ、ホントはさみしいんじゃないかしら?お医者様」
「そんなこと…」
「ボクは寂しいね、」
そう言うとガラス越しの空に目を遣った、随分と高い位置からみる星は輝いて見える。
「あのお方が働く日は星が綺麗ね。」
「目に見える仕事っていいよな、」
「キミだって、誇らしい働きをしていると思うよ」
「地味だが、」
「ハハ、地味でもさ」
「きっとその功績は讃えられますわ。後々に」
「そーいうのが…なんだかなぁ、」
チンッとエレベーターの音が鳴る。
「言ってたら僕の番のようだ、」
「さようなら、お医者様。」
「どうぞ、」 ガートルードが開閉ボタンを押す
「すまないな、英雄。」
フールノーは悪戯そうに笑うと足早に廊下に出ていった。
「やっぱり寂しがり屋ですのね、挨拶もしないで」
「…別れは誰しも辛いだろう?」
暫くの間があって扉が閉まる。
昇降機の稼動音が始まり、空では仔羊の群れを分けて星が輝き出す。
「ふふ…星が綺麗ですね、」
「…そうだね、また明日も見たい星だ。」
「私とあなた様どちらが早いかしら?」
「………さぁ、わからないな。」
「そうかしら?わかってらっしゃる感じがしますけど?」
「わかりたくないけど、」
「ほら…わかってらっしゃるわ。英雄様ですもの。」
「意地悪だなぁ…。」
「ふふ…不器用な人。」
チンッとエレベーターの音が鳴る。
「どうぞ、」ベスパが開閉ボタンを押す
「じゃあ、また明日。」
「ええ、さようなら英雄様。」
「……キミは、一人でも平気?」
「ええ、大丈夫ですわ。星を見ていれば」
「ハハ、ボクと同じだね。さようなら。」
閉まるドアの間から寂しそうなガートルードの笑顔が見える。
その笑顔を見送ると、ドアに背を向けて星空を見た。
「あぁお星様、明日もずっとずっとこの先も…この街を廻してくださいませ。」目を閉じて祈ると、星が返事をしたように思えた。
もう夜明けが近い、空の星が消えようとしている。
「あぁこんな時間まで居てしまったわね、」
チンッとエレベーターの音が鳴る。
「誰かしら、こんな時間に……?」
予期せぬ来訪者にドクンと胸が高鳴った。
開いたドアから足早に乗り込むモノがひとつ。
「っはぁ~!遅刻するかと思ったぜ。」
「急いできたのね彫刻師様、おはよう。」
「おはようさん、ベスパ。」
空はもう明るくなっていた。