短編小説みたいな日だった

yud0uhu
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最寄りのJRの駅に向かう道のりには商店街がある。仕事終わりに歩いていたら、お店の軒先に置かれたデスクに目が止まってしまった。

木目調のぐっとくるデザイン(家にすでに木目調のローテーブルがあるので、レイアウトがあわせやすそう)で、潜在的な欲求をみたしてくれる機能性もあった。完全に物欲スイッチが入ってしまった。

店主さんと少し会話をして、取り置きできないかを聞いてみたけど、むずかしいらしい。もう閉店の時間だというので、土曜日にまたこよう、とおもいつつ、一旦お店をあとにした。

しばらく歩いていると、今度は見慣れない半露店に革財布が陳列されていたので、ふらっと立ち寄ってみた。

安くなっていたので、ちょうど革のカードケースがほしかったんだよなぁと思いながら手に取って眺めていたら、店主さんにカタコトの日本語で話しかけられた。

「お兄さん若いね。23歳?」

顔をあげてみたら、白髪の英国紳士風の店主さんだった。

「そうです。よくわかりましたね」

店主さんは頭をこんこんとしながら

「だれにでも当てはまりそうなことを言っただけだよ。哲学だね。当てはまる人だけが残って、当てはまらない人は去っていく」

(バーナム効果のことかな?)と思いながらうんうんと話を聞いていた。人好きのする感じの店主さんで、なんとなく話していて気持ちがよかった。

安売りしていたカードケースは一品ものが二つ。一つはもうなくなってしまったというブランドの品、もう一つはMEN'S BATSUのロゴが入った品。

「油で磨けば味が出る」というMEN'S BATSUのロゴが入ったほうをおすすめされたので、こっちのカードケースを2000円で買った。その場で油で磨いてくれた。

僕の履いていたモンベルの靴を指して、店主さんが「ぼくの服もモンベルなんだよ」とロゴ入りのトレッキングパンツを見せてくれた。

聞いたところこのお店、今週の日曜日にはなくなってしまうらしい。コロナの影響もあって、お店の場所を二転三転しているらしい。いまがちょうど、期間限定の出店だったらしいのだ。

なんとなく物悲しいきもちになりながら、15分後に美容室を予約していたので、「また来ます」といって早足で駅に向かった。

なんだか短編小説みたいな日だな、とおもいながら歩く足取りは軽かった。お店がなくなってしまう前に、もう一度行けたらいいな。

@yud0uhu
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