ほんの少し先に部署の部屋を出た同僚を足早に追いかけて、玄関で追いついた。部屋は二階。
階段を下まで降りた途端に、傘を部屋に忘れたことを思い出した。
いつも敬語なのに思わず「傘忘れた!」と言ってすぐに駆け登った。待っていてください、なんて言えない。
傘を取って急いで戻ると同僚はもういなかった。建物を出てもすぐに見える範囲には姿がなくて、せっかく一緒だったのに、バカ。と自分にこぼした。
敷地から歩道に出ると、先の横断歩道を渡る同僚が見えた。私に気づいた同僚が、走っておいで、というように腕を振って走るジェスチャーをした。数十メートル先だ。
私は嬉しくなって、ジョギング程度に、最後はもう少し急いで走って、もう駅までの道のりの半分しかないくらいで追いついた。
息を弾ませながら「追いつきました」と声をかけると、「よく頑張りました」と言われた。
また少し嬉しくて、でも暑くてマスクも外してはぁはぁと息を荒げていたら、「頑張ったからメロンフラペチーノ飲みに行きましょうか、ごちそうします」と言われた。
びっくりしたけどすぐさま話に乗った。同僚は私よりも歳上の先輩だからそこは強く遠慮するものでもないし、数日前にフラペの話もしていたからスムーズだった。
あまり何を話したかは覚えていない。
これがご飯になるのか、帰ってから食べるのか、なんて話から、自炊をするのかと聞かれた。したりしなかったり。一人だと自分が食べるだけだからだいぶ適当。家族がいて毎日つくる人は凄い。凄いよね。なんて、私の話もしながらどうやら同僚も一人らしいことを探った。
ご飯を作るのは多分さほど好きではなくて、お菓子を作るほうが好きだと言ったら、甘党なのでいつでもウェルカムですと言われた。
またちょっと驚いた。甘党なのは知ってる、いつも甘いお菓子をくれる。作ったら、食べてくれるの。
できるだけゆっくり飲んだけど、ふたりともカップが空になった。フラペのストローは紙で、プラのままだったらもっとゆっくり飲めたのに、と思いながら、駅まで歩いた。
駅に入って歩いていたら、
「(私)さんに一生のお願いがあるんだけど」と言われて(何!?)と思ったら
「ディズニーランドのスペースマウンテンに乗りたいんだけど、男一人だと行きにくくて。一緒に行ってくれないですか」と誘われた。
スペースマウンテンが間もなく無くなることは私も知っていたから、タイミング的に正に一生(に一度)のお願いになるわけで、本当に理にかなった一生のお願いをされたのが初めてで面白くて、即承諾した。
そうしたら、連絡先としてLINE交換を求められた。
当然だった。会社の携帯は二人共支給されていない。連絡手段は必要だもの。
その日はそれで帰った。
ご馳走になったから、改めてお礼のLINEを送ったら、今度はちゃんとご飯もいきましょう。と返ってきた。ディズニーの日程も決めなきゃならないしね。顔を合わせられるところにいるのだから、話したほうが早い。何もおかしくない。
メロンフラペが飲みたい、という話から、ここまでの流れがあまりにもスムーズで上手で、私なら思っても出来ないなと感心していた。
まだ、単なる仲の良い会社の同僚の範疇だ。そう思うことにした。
翌々日の日曜日。
休日に誘っても大丈夫な感じですか
とLINEが来た。
私はその時いちごのマフィンを作っていた。元々、金曜日のお昼には週末にいちごのお菓子を作ることは決めていたのだ。ただし、食べてくれると言ったから、人にあげる仕様には切り替えていたけれど。
なんて返せば良いのか
どういうつもりなのか
迷ったけど、
大丈夫ですよ👍🏻
とだけ返した。嬉しい、まで言うと、私だけが先走っている気がした。
喜んでる感じのスタンプが返ってきた。
私は、少し困っている。スペースマウンテンに誰かと乗りたいだけなのか、それ以上の意図があるのか。会社の同僚女性、だと私くらいしかいないのだ。話す機会が一番多いし、仲良くもしてる。それだけなのだ。