昔から、好きで好きでたまらないジャンルがある。
「ミステリアスな女」だ。
名作でパッと思い浮かぶキャラだと峰不二子が該当しそうだが、もう少し謎めいていてほしい。
僕がよく引き合いにだすキャラクターは、「雪女と蟹を食う」の「雪枝彩女」だ。
簡潔に説明すると「無敵の人と化して自暴自棄になった主人公が、たまたま見かけた金持ちそうな人妻を強盗しようとしたところ、なぜか進んで体を差し出すしお金までくれるし、死に場所まで一緒にドライブしてくれることになった」という話だ。
基本的にずっと男性目線で話が進んでいくので、なぜ女性が体を差し出したのか、なぜお金まであっさりよこすのか、そしてなぜその後も同行を買って出るのか、行動原理の全てが謎に包まれている。
表向きの態度は物腰柔らかだが、深入りしすぎると抜け出せなくなりそうな深さがある。
どれだけ体を重ねても、そのまま寝てしまえば寝首をかかれそうな毒がある。
性悪でも純情でもなく、何も考えていないわけではないが何を考えているのか分からない。
似たところで言うと、以前も紹介したLyu:Lyu(現CIVILIAN)のメシアに出てくる少女だ。
何度見てもいいMVだね(うっとり)
死体遺棄をして息も絶え絶えな男にキス、殺人のことなどすっかり忘れ食事に明け暮れる。置いていかれた後のコーヒーを苦く思っていることから、男のために買ったものと思われるが真意は不明。
無表情か笑顔を見せるだけで、何を考えているのかよく分からない。でも恐らく、少女の中ではいろいろな感情がうごめいている。
自作品で表現したいと思ったことは何度もあるが、一度も実現しなかった。
僕はどちらかと言うと、作品のテーマやキャラクターの感情をはっきり明確に描写する作り方のほうが得意だ。
得意というと自分の武器であるかのような物言いだが、正確に言うと「難しいことに思えない」のだ。
特に、感動して泣かせるタイプの大衆向けの作品を書くのは僕からすると造作もない……は言い過ぎだが、特に何も考えなくてもアイデアが降ってくる。
逆に、含みを持たせたり行間を読ませる話を書くのは苦手だ。僕としてはそっちに憧れるので、人格診断MVのときにはそちらに挑戦してみた。
しかし、ウケはあまりよろしくなく、よく分からないといった感想が少なくなかったので、アップデートで真逆のエンディングを追加したところ、広く評価されるようになった。
僕としては、元々のエンディングのほうが作るのに苦労したし、目指していた作風だった。しかし、受け入れられたのも、評価されたのも、簡単に作れたのも後者だった。
大衆が無理解だとか、自分に感動作を作る才能があると言いたいわけではない。得手不得手を、その時強く実感したという話だ。
そして言うまでもなく、ミステリアスな女を描くなら、僕が苦手とする作風に挑まねばならない。
いろいろ考えはしたが、企画倒れだった。
途中、いくつか僕の理想を完全に超える作品を目の当たりにして「もう自分が作る意味なんて無いのではないか」と激しく落胆したこともある。
ひとつは先程書いた雪蟹で、もうひとつは、何を隠そう「バイオハザード」である。
詳しく言うと、「『BIOHAZARD 7 resident evil』 TAPE-1 “荒廃”」という名のPVである。
これの2:13から映る、夕焼けに照らされた廃墟を見つめる逆光の女性のシルエットだ。
また、これは女性かどうかも怪しいが(というか、歴代のストーリーを考えると男性という見立てをするのが普通)、終盤に映る車椅子のシルエットも性癖にぶっ刺さった。
バイオハザードは、今まで何度も大きな路線変更に挑み、そして成功させてきた。7もそのひとつで、従来のバイオを知るものにとって、この映像はあまりに風変わりだったのだ。
参考までに、こちらが6の映像だ。終盤だけ見てもらえば十分だが、何もかもが異なる。
僕にとって、バイオというのは良くも悪くも分かりやすい娯楽であり、アートや物語に浸るようなものではなかった。
怖い、ムカつく、楽しい、気持ちいいといった感情を分かりやすく刺激してくれる極上のエンターテインメントだった。
それが7で、思わず見とれてしまうような画に出くわしてしまった。
何度、あのPVを見返したか分からない。
何となく表現したいと思っていた「好き」があの映像で確立された。
Unityやツクールで何度も再現を試みては失敗した。画だけではなく、物語やゲームシステム、商業目線でのニーズという観点からも失敗した。
そこへ、雪蟹がとどめを刺しにきた。
一度、ほんの少しではあるが、雪蟹の作者から創作の心構えを伺ったことがある。
「私自身は病んでいないので、サイコパスのような気分でこの作品を作っている」とか、たしかそのようなことを仰っていた。
なるほど。僕は、雪蟹のとことん病み尽くした作風に感銘を受け、食らいついても全然底が見えないヒロインに釘付けになったが、作者はそれをロジカルに作品に落とし込んでいたわけだ。
もしかすると、僕がなんのけなしに感動作を作れてしまうのと同じなのかもしれない(実力が雲泥の差なのは当たり前として)。
「こんな物語が書けるなんて、作者の頭はどうなっているんだ」とまで言われたことがあるが、僕からすればあの話は造作もないことだった。作品に仕込まれたギミックはそう思いつくものではないが、あんな話、書けと言われればいくらでも書ける。
そもそも、「年越しまでになにか一本」と、年末にふと思い立って作っただけの息抜きだったんだから。
ちなみに、雪蟹は感動的な終わり方である。どっちを取っても大敗で、非常にやるせない。
どう描くか
話が盛大に逸れた。こんな過去のヘラった話を書きたかったわけじゃない。
ミステリアスな女と類似して、僕は「顔が見えない女」が好きだ。
例で言うなら、先程のバイオハザード7が相当する。
Pinterestに多数のクリップを保存してあるが、権利関係が非常にアヤシイので残念ながらここに載せることはできない。
大体は薄暗さとセットなので、夕焼け・マジックアワーといった日の入りだったり、屋内だったりする。
女性は本を読んでいたり、窓辺に腰掛けて景色を眺めていたり、ベッドで横たわっていたりする。
そのいずれも、顔が隠れていて見えない。
それがこう、とても美しくて、いい(語彙力)
今僕はアダルトゲームを開発中だが、顔が最後まで一切映らないアダルトゲームを企画したこともあった。
当然、技術・企画のセンス共に及ばずにこれもボツ案になってしまった。
生成AIが権利関係をクリアできたら、いずれまた挑戦したいジャンルだと思っている。