分身するボスが好きだ。最初は単体として登場し、途中から分身するボスが特に好みだ。
なぜ好きなのかって、前半と後半で違う戦いを強いられるからだ。単体では余裕だと思っていた敵が、分身することで手応えが増す。同時に複数の攻撃を並行して捌く必要があり、単体の予備動作を見ていればよかった前半戦とは打って変わって忙しくなる。
この、追い詰められている感が好きだ。
最初にそういうボスに出会ったのは、イース・オリジンのヴァジュリオンだった。
多数のコウモリでできたモンスターで、コウモリが編隊中はダメージが通らず、合体して獣型になるまで逃げる必要がある。体力が半分になると編隊が分裂するので、片方が編隊でもう片方が合体なんてこともあり、混乱しやすくて面白い。
僕自身、攻略サイトで名前を確認したほどのマイナーなボスで、シリーズファンでも覚えている人は皆無だろう。が、イース・オリジンは僕が初めて遊んだ本格的なARPGということもあり、当時は衝撃を受けた。
他にも思い出深いボスはたくさんいるが、中でも特に好きなのはBloodborneに出てくる「トゥメルの女王、ヤーナム」だ。
なにが好きって、もう全てがとことん中二病に振り切っており、文字に起こすだけでゾクゾクしてしまう要素が満載だからだ。
まず、容姿。真っ白なドレスを着た、肌まで真っ白な妊婦。身籠っているのか腹部がやや膨らんでいるが、なぜか腹部には大量の血が付着している。
もうこれだけで美しい。一目惚れだ。
最初は手枷をしており、血を噴射する遠距離攻撃しかしてこない。例に漏れず分身もいないため、近寄ってしまえば近接攻撃でタコ殴り……かといえばそうでもなく、どこからともなく聞こえてくる赤子の泣き声がした際は、すぐに離れないと特殊な念力で拘束されてしまう。
これもまたいい。予備動作を見て攻撃を避けることがほとんどなBloodborneにおいて、音だけを頼りに回避するボスは彼女だけだ。
念力というのもまたよくて、彼女のモーションに関係なく、赤子の泣き声がした数秒後に、無条件で周囲のプレイヤーを強制的に拘束する。
赤子の泣き声、念力、拘束、手枷。たまらねえ。分身する前からかなり飛ばしている。
体力が一定以下になると手枷を破壊し、刃物を使った近接攻撃もしてくるようになる。手枷を見た時点で分かりきっていても、やはり破壊してきた瞬間は思わず高ぶってしまう。
更に体力を減らすと姿を消し、マップの四方に分身と共に再出現する。
分身は一度攻撃すれば消えるが、マップが広いので本体の目星をつけないと効率が悪くなるし、当然分身も攻撃するのでただでさえ食らうと危険な遠距離攻撃も苛烈になる。
見分け方は、腹部が膨らんでいるかどうか。分身は赤子を宿しておらず、本体しか腹部は膨らんでいない。これもまた最高。
後半戦では、稀に本体が膝をつき、広範囲のプレイヤーたちをまとめて拘束し、ゆっくりと天高く浮かせてから叩きつける特殊攻撃もしてくる。
たまんねえ。もうこの攻撃見たさにわざと食らう時すらある。
そして最高なのが、Bloodborneにおける裏ラスボスにして、強さが(他と比較して)控えめということだ。
詳しい説明をしたら日が暮れるので控えるが、名前からしてストーリーの壮大なネタバレであり、名前とともにその姿を見た瞬間にアハ体験が生じる。
Bloodborneにはエネミー図鑑のようなメタなシステムがほぼ無いので、敵の名前を知るにはボスとして登場した際の専用UIに頼るしか無い。
その辺をほっつき歩いているので顔なじみだが、正確な名前は知らないなんてことはザラにあるのだ。
その名前を知るには、裏ラスボスに挑むための七面倒なダンジョンを長々とこなす必要があり、最終決戦に挑んだ時に、見たことのあるビジュアルとともに「トゥメルの女王、ヤーナム」の名前が明らかになる。その名前が、世界観の考察がかなり捗る名前という寸法である。
いわば、多大なストレスとフラストレーションを慢性的に抱えながら七面倒なダンジョンを続けてきたプレイヤーへのご褒美なのだ。
そんな名前だったのかと驚き、全ボスの中でも圧倒的な存在感を誇るビジュアルと特殊攻撃をし、分身もするという文字通りの出血大サービスに興奮し、しかも初見でもギリギリなんとかなりそうな強さに留まっている。
言うまでもなく、人気ボスだ。
唯一の欠点は、戦うのに非常に面倒な工程が必要ということだ。数々の素材集めに走らねばならないし、道中のボスも血管が次々とブチ切れるほど強い。
僕がここでネタバレを躊躇なく書くのは、もう僕ごときが何を言っても今更Bloodborneを手に取る人が現れるとは思えないことと、仮に手に取ったとして、ヤーナムに辿り着けるとは到底思えないからだ。
もし万が一、気になったので絶対に倒してやるなんて気狂いがいるのであれば、ぜひとも挑んでみてほしい。