先日、映画好きの母からオススメされた映画「THE IRON CLAW」を見に行ってきた。
ハイスクールミュージカル主演のザックエフロンが主演で、有名プロレスラー一家の実話に基づく物語。ぜひジャケ写を見てほしいのだが、CGかと思うほど巨体の彼が、あのザックエフロンなのだ。別人っぷりの肉体改造に驚く。
そしてキャッチコピーに散りばめられた言葉、「成功の裏側」「栄光の影」「悲劇」「呪われた一家」(スポーツ・スリラーというジャンル)に興味をそそられた。「グレイテストショーマン」的な、成功に取り憑かれて周りが見えなくなる物語?、フィクション要素も交えたホラー映画?と、予測できそうでできずにいたのだが。
映画が始まると、意外にも、淡々と、日常が映し出されていく。
話の展開は、劇的に早くはないからこそ、現実的で、親近感があって、だからこそ、ニュースで語られてきた悲劇が、まるで自分の周りで明日起こるかのようなリアルさがあった。
ちょっとした不注意、ちょっとした過信、プレッシャーや体の酷使から歪んでしまう思考、それらが空回って繋がっていくように見える様。
誰にでもある出来事であり、特に仕事で頭一杯になってる人は共感できるところも多いのではないだろうか。
あまりの没入感に、見終わったその1日は私もお葬式に参列したかのように、自己喪失に陥ってしまいそうだったが、監督のコメントにハッとさせられた。
『アイアンクロー』は、悲しみや苦しみの物語ではない。むしろ、悲しみの欠如と、人が自分の苦しみから目を逸らした時に、何が起こり得るかを描いている。
ケビンが家族の掟を破って呪いを打ち砕き、より賢く、強く、平穏な心を持って苦境を脱する、復活の物語なのだ。
誰にとっても起こりうる、悲しい出来事に対して、どう打開して、決別してくか、その生き様がじわじわと勇気を与えてくれる物語だった。
どう思考停止せずに、前を向いて切り替えて糧にしていくか、それこそが真の強さなのだと感じる。
そう、「思考停止」の恐ろしさを全身で感じ取った映画であった。
P.S.
久しぶりに映画館で一人で映画を見たが、とても満足度の高い体験だった。
ネトフリやアマプラで見る体験とは違って、映画館は、映画だけに集中でき、読書のように、起きている状況の背景や、主人公の言葉の理由、伏線などに思考をめぐらせる余白がある。
また日常の雑音や景色を美しく映像の中に取り込み、全身で感じられる体験は、映画館を出た後に、現実の別の見方を教えてくれる。
これから一人映画にハマりそうな予感だ。