「プリンセスになりたい」
3歳になったばかりの娘が、保育園に行くための着替えのタイミングで、突然そう言い出した。
言うや否や、クローゼットまで走っていき、お気に入りのドレスを指差して「これ」と主張する。
正直、困った。
そのドレスは薄手で、この時期には寒いし、そもそも保育園に着ていく服でもない。
理由を説明して、いつもの服を着ないかと提案する。
けれど、聞くはずもなく、ついには泣き始めてしまった。
ここで、少し迷った。
このまま押し切るのは簡単だ。でも、それでいいのか。
結局、「保育園に着いたら着替えよう」と約束して、ドレスを着せることにした。
ドレスを着た娘は、すぐに機嫌を取り戻した。
絵本を読んだり、ボールで遊んだり、さっきまで泣いていたことが嘘みたいに、楽しそうに過ごしている。
その様子を見ながら、「まあ、こういう日があってもいいか」と思い始めていた。
そして、出発の時間。
そのままドレスで靴を履かせようとしたとき、娘がぽつりと言った。
「着替える」
そう言って、自分からドレスを脱ぎ、さっきまで頑なに拒んでいた服に袖を通し始めた。
あれだけ泣いていたのに。
あのときの「着たい」は、ただの気まぐれだったのかもしれない。
あるいは、「一度着ること」が必要だっただけなのかもしれない。
どちらにせよ、ひとつだけ確かなことがある。
親が説得しなくても、子どもは自分で折り合いをつける。
3歳でも、状況に応じて行動を選ぶ力は、もう芽生えている。
もちろん、すべてを理解しているわけではないだろう。
でも、「今はこうする」という判断を、自分で下している。
それを見て、少し驚いた。
そして同時に、少しだけ寂しくもなった。
手をかけなくてもいい場面が、少しずつ増えていく。
ちゃんと育っている、という実感と、
もう少しこのままでいてほしい、という気持ちと。
その両方が混ざった、朝の出来事だった。