ラストマイルを観た 感想文

ゆらの
·
公開:2024/8/27

名古屋のミッドランドスクエアシネマで観てきた。平日昼なのに客席が満員だったよ。しかもすごく年齢層が若くて……えっこんなに若者に支持されているんだ……と感動してしまった。若い子がご遺体の解剖シーンやら警察の麻薬取り締まりやら見てるってことなんですよ……嬉しいね……(???)

野木亜紀子脚本で、企業の限界を感じる側面を描く作品といえば、アンナチュラル4話『誰がために働く』。ラストマイル観ながら思い出した人は多いと思う。

アンナチュラル4話ではケーキ工場の限界を描いているんだけど、あれは町の中小企業のお話だった。

それが今回ラストマイルでは、世界規模のショッピングサイトの限界を描いている。規模がデカくなった分、共感できる部分が薄れるんじゃないかみたいな心配は全くなくて、むしろものすごく身近に感じる、日本のみんなに届け……というテーマになっている。すごいね。

これは何回も書いてるんだけど野木亜紀子さんの描く、人間を根本の部分で愛している脚本が好きなので、働く人が精神を病んで、それで悲しい事故が起きてしまうのを描くのは本当にこの人の人間性というか、この人ならこの脚本を書くよねえ……を噛み締めていた。

結局のところ、「自分の命を犠牲にして無理やり止めたベルトコンベア」は止まらなかった。頭から血を流して倒れる山﨑佑の目の前で、ベルトコンベアは再稼働してしまった。

自分の体を燃やしてまで荷物に爆弾を仕掛けた筧まりかですら、事件が終わった後には何も残らなくて、ただ命が失われてしまっただけで。

じゃあ何が残ったんだろう。この映画の中で残ったものって羊急便の待遇が良くなったことくらいだ。二人も命を投げ出して何も叶わなかったことを、主人公の舟渡エレナは生きたままやってのけたんだ。

舟渡エレナという女、初めて見た時に「この子が主人公か、大丈夫かな……」って感想がまず沸いたんだけどあれはミスリードのためだったのね。

主人公のふりをする破壊者に見えたのよね。それでその予感がだんだん当たっていく。でも主人公自身も実は『働くという行為の中でおかしくなってしまった人間』だったことが判明していく。

渦中にいる人は正常な判断ができなくなる。

手を差し伸べてあげられる『誰か』が奇跡のように隣にいない限り、その人は壊れるまで働いてしまう。

エレナは救世主になりたかった訳では無いと思う。休職から復帰したばかりでまだ心にはたくさんのヒビが入ったままで。

作品の中盤あたりまで、エレナは本当に、他人なんてどうなっても構わない、って思っていたかもしれない。とても自虐的な言葉をたくさん使っていたから。

でも最後には、エレナは人の命を助ける方を選び続けた。自分の過ちを、他の誰にも繰り返して欲しくなかったから。

エレナが自分の本当の正体を明かす瞬間が爆弾を自引きしてしまうシーンなのが本当に好きで……登場人物には本当に申し訳ないんだけど劇中で一番好きなシーンです。

ああいう極限の状況でないと本当の自分が出せない人っているよね〜〜〜!!!舟渡エレナも梨本孔もそういう人だから……「こいつ!!!こんなキャラだったんかい……!!」がビュンビュン飛び交ってて本当に良かった 嬉しくなっちゃったよね。

「悪い羊は誰かな〜〜!!」って言いながらウールのセーターを着るシーンも大分好きです(ギャグか??伏線じゃないよな??情報量がすごくて頭おかしなった)

あとは八木さんという男も相当好きです。

ねえ公式サイト見て……登場人物紹介のページで八木さんの名前が三番目に来てるの。主人公、パートナー、八木さんの並びになってるの。これってすごいことだと思っていて、あの主要人物が多い映画で作者が三番目に重要だと思ったキャラクターが八木さんということなんです。

病んで病んで、それでも働き続ける人間たちの祈りが向く先が八木さんという男なの。お願い、誰か八木さんを助けて……って思った瞬間、羊急便のオフィスにエレナが現れるの。あのシーンも……好きだなあ……。

古い洗濯機が一家の命を救うシーン。

あれは何を示唆しているんだろうな……というのをぼんやりと考えていた。物語の冒頭で、大企業に勝てなくなって生産できなくなってしまった、と言っていた。

そういう、淘汰されてしまうもの、コツコツとやってきたもの、それこそが最後には自分自身を助けるんだぞ……みたいなメッセージなのかな。

ラストシーン、「次はあなたの番」といって、エレナが梨本にロッカーの鍵を渡してどこかへ去っていく。あれは視聴者に語りかけているんだね。梨本はわたしたちだったんだ……

梨本本当に苦しそう、それはそう。ブルドーザーのように働くエレナに自分はなれなかった。鍵を渡されてどうしろというんだ。彼の中でエレナがずっと消えないブルドーザーとして生き続けるんだろうな……

エンドロールを見届けたあと、そのまま近鉄名古屋のタワレコで米津玄師のアルバム・LOST CORNERを買いました。素晴らしいアルバム。米津玄師、同じ時代に生きてくれて本当にありがとう。

あの映画観たあとでAmazonで買うの怖くなったって訳では決して無いよ。

わたしはかなり前に仕事で精神ぶっこわし済みの人間!転職してめでたし!なのでこの映画から受け取った鍵は今は使わないでとっておくことができる。受け取った鍵をどこに使おう、と考えた結果、

自分の足で買いに行けるうちはお店を巡って買いたいよね。とぼんやり思ったの。なんでも通販で手に入る現代だからこそ。

(追記)

米津玄師のがらくた、登場人物の中でいうと誰のテーマソングだ……???!!

何回聞いても分からん。エレナと梨本では無い気がする。あの二人は「僕の傍で生きていてよ」なんて言わん。そんな気がする。この二人でそういうルートを妄想している職人がいたらごめんなさいね……

じゃあ誰……筧まりかが山﨑佑に向かって歌ってる曲なのか……??「嫌いだ全部 嫌いだ」のところ、この社会の何もかもを恨んで死んでいったまりかの言葉に思えてならないんよね…。あなたがずっと壊れていても傍にいて欲しい、の意味が最大級に重くなるのがこの二人だなあ……

@yurano
自分用メモ