感触

yurano
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衣替えのために踏み台に乗り、クローゼットの天袋部分へ荷物の上げ下ろしをしていた。そんな時、ふと脹脛に当たった柔らかな感触に思わずごめん!と言葉が出て、すぐに我に返る。なんのことはない、すぐ脇のチェアカバーのファーに接触しただけだ。それなのに、その柔らかい肌あたりは猫の擦り寄る感触にそっくりで、そっちのほうがあまりに自然で慣れ親しんだ感触で、反射で謝る自分に思わず笑った。もう離れて暮らして数年経つというのに。そしてその猫も虹の橋を渡ってしまったというのに。

ところかまわず纏わりついてくる猫にも非があるはずなのに、少しでも私が猫に引っかかったり、あまつさえ足を踏んづけようものなら極悪非道人を見るように私を見返していた猫。いまいち私のことを下にみており、撫でてやるとたまにお返しなのか、お前は毛繕いもできないのかだめだなぁとばかりに私の手を舐めてきた猫。そんな些細な眼差しや感触はもういなくてもずっと残っている。

それでも、忘れなくても、忘れたくなくても、私の記憶の中の感触ではなく猫が様子をみにきたのではないかと思ってしまう自分もいるんだけれど。アイツ、私がトイレの世話をしてもおやつを与えてもなぜか私のこと出来の悪いやつだと思っている節があるしな。