ゲームめもシリーズvol.2。前回ゲーム全体についての分類とか特定のジャンルに限らない内容とか定義の話をしてきたが、今回は遊びを考えるコツとか企画立案系のことを書き散らしていこうと思う。
コンセプト
ゲームやゲームデザイナーにとって一番大切なことで、一生考え続けていかなければいけないのがこの”コンセプト”。この言葉自体にいろいろな定義があるが、ここでいうコンセプトはゲームの基礎となる体験であり、そのゲームを通してユーザーにどんな体験をさせたいのか、どんな感情になってほしいのかを言語化したもの。
コンセプトを書こうとしたとき、慣れないうちはゲームの概要を書いてしまうことが多々ある。例えばスプラトゥーンだと「色を塗りあって陣取り合戦!」とか。これはゆりみつの中では単にゲームの概要であって、その「色を塗りあって陣取り合戦」をする先にある感情や体験を言語化することが大切。例えばその先にある感情が、”最後まで勝負がわからないハラハラ感”なのか、”じわじわ押し合うが最後は蹂躙する支配感”なのかなど。おそらく前者はスプラトゥーンに近くなるが、後者は全く別のゲームになる。コンセプトというのはゲームを1つの木として例えるなら”幹”になる部分であり、そこから分かれて枝葉となる各要素が構成される。ゲームの概要はそのコンセプトを叶えるための手段・要素であって、そのゲームの本質ではないということをしっかりと理解してないと躓きやすい。ゲームの仕組みや仕様を考えていくうえでは、仕様の判断をこのコンセプトに沿って判断していくことになる。その判断の軸をぶらさないという点においても、コンセプトは一番大切になる。
自分でコンセプトを考えるうえで、一番簡単な方法は○○感という言葉を使うこと。例えばMGSだと「ばれずに潜入するドキドキ感」だったり、モンハンだと「大物を狩る達成感」だったりとか。弱点としては作りやすくてわかりやすいけど、○○感という言葉自体が実は結構少なくて、「爽快感」に全部つながってしまうところ。そういう時は○○のときのとかそういう場面的な補足をして書いてあげるとわかりやすい。
ゆりみつが自分で考えるときは、直近の実体験だったり、日常的に気持ちいい、心地よくてついやっちゃうような手遊び的なものだったりからコンセプトを立てることが多い。Vを結構見始めた時だと「推しと一緒にゲームしてみたいよなぁ」→「オタク同士で推しを守る一体感(配信者向けのマスゲーム)」とか、「イヤホンとかの磁石カチカチずっとやっちゃうんだよなぁ」→「磁石をカチッとくっつける気持ちよさ(磁石を使ったパズルゲーム)」とか。そういう実生活に近いところからコンセプトを持ってきたほうが、資料を見ただけでもこういう時ね!わかるわかる!というわかりやすい気持ちよさになって、共感も生まれて共通認識が持ちやすい。
要素の抽出と抽象化
ゲームデザイナーにとって”面白い”という抽象的な感情を言語化する能力は非常に大事。ゲームに限らず日頃から心を動かされたことや面白いと感じたことに対してしっかりと理由を考える癖をつけておけば割と自然と力がついてくるような気がする。日常で起こる具体的な事象から気持ちいい要素というのを言語化して抽象化してストックしておけば、その分自分の引き出しが増える。
例えば、「正月実家に帰ってホッとした」という具体例から→なぜホッとしたのか→日常仕事で気を張って頑張っているから→ホッとするという感情は”常にある緊張からの一時的な解放”が生んでいるんだな。とかでいいので言語化しておけば、ホッとする感情を与えたい、となった時に「じゃあ緊張と緩和の2つの要素が必要だな」とか「その要素の割合は緊張がほとんどで緩和はほんの少しの必要があるな」とか理論立てて考えられるようになる。さらにそうすると「あ、これってゲームでいうとセーブポイントについたときの感情と似ているな」とか全く別の要素で類似の感覚をつなげることができる。日々の生活の中でのこういった具体例を抽象化し、その感情を起こすために必要な要素を抽出してストックしておけば、その要素に別の具体例を入れるだけでその感情を再現することができる。
ゲームデザインは常にこういった感情を与えたい。こういった体験をさせたい。というところから、それをゲームの中の要素を使って構成していくのでこの考え方とかこの引き出しは仕事の上でとても役に立つ。
アイディアの拡げ方
ここまで書いたことをやっていくと、抽象化した体験や感情≒コンセプトがわかり、そのために必要な要素まで割り出せる。さっきの例でいうとコンセプトは「長い緊張から解放されたときの安心感」(これがゲームとして楽しいかどうかは別として)になり、必要な要素である”緊張”と”緩和”の要素を入れればこの感情を成立させることができる。
今度は、”緊張”という抽象化した要素を具体的な要素に分解してみる。例えば緊張に必要なものは、怖いもの・大きなものを賭ける・失敗を隠す…とか。そのあとにここで出たものをキーワードとして怖いもの=恐竜・おかん・ヤクザ・お化け…とできる限り出す。この方法が所謂マンダラートって呼ばれる手法。
アイディアの発想法は多くあるが(有名どころでオズボーンのチェックリストやらカラーバス法やら)フレームワークがなぜあるかというと”人間の脳みそは考えたいテーマに対して無意識に関連性のあるものしか発想しなくなる”から。どのフレームワークもある一定のルールを設けることで発想を拡げるものであり、この無意識の抑制を取り払うためのもの。
これだけわかっていれば、自分自身でルールを適当に設定して、それに従ってキーワードや単語を羅列していくだけでもアイディアを拡げていくことができる。例えば赤いものだけでしりとり、とか手に乗るサイズのものを羅列する。とかなんでもいいので、ルールを設定して脳みそを無理やり考えたいテーマから離してやることが大事。
アイディアは拡げて絞るを繰り返してブラッシュアップする
アイディアの拡げ方を書いた上で心構え的なことだが、アイディアは”拡げる”と”絞る”を繰り返すことでブラッシュアップしていく。一度で最高のアイディアを出す!ではなく本当にゴミみたいなアイディアをたくさん出す。アイディアが出ない人はここで気張って最初からいいアイディアを出そうとしている場合が結構多い。拡げるときは徹底的に拡げる(数を出す)絞るときは徹底的に絞る(潔く切り捨てる)のがとても大切。
いろんなところで言われているがアイディアは質より量。量の中から光っているものを搾り取っていって、組み合わせていくのが正しいアイディアの作り方。例えば砂金から金を作るときに砂金をいきなり探す人はいない。たくさんの土を掬って、水に晒して小さな砂金を集めて、それを合成して金にする。アイディアづくりはそんな感じをイメージして練習していくとだんだん苦手意識がなくなっていく。
まだ試したことはないが、一定のルールに従ってキーワードを数出すってAIが得意なんじゃない?と何年か前から思っている。だが本気で新しいアイディアを作ろう!となるタイミングがなかなかないので使ってない。最新の技術はどんどん使っていきたいなと思っているのでうまくアイディア出しにAIを活用できないか実際に試してみるのが今後の自分の課題。
最後にアイディアを”絞る”とき、コンセプトがすでに決まっているものであれば、コンセプトに紐づかないものは全部捨てる。0から発想しているときは自分が面白そうと感じなかったものは全部切り捨てる。逆に面白そうと感じたものについては前に話したようにその感情を抽象化・要素を抽出してコンセプトを割り出してまた、拡げて絞る。本当に大切なのはこの”絞る”作業をアイディアを拡げるときに頭の中で同時並行で進めようとしないこと。