烏と通じ合う

yurutan
·
公開:2026/5/14

ある晴れた日のこと。とある海沿いの場所でカメラを手に散策していると、上空を一羽のカラスが旋回するように飛んでいた。鳥類の中でもカラスが一番好きなので、その悠々とした姿に見惚れつつも、距離が遠く手持ちのレンズでは撮影が難しそうだったため諦めつつも、もう少し近ければな……などと内心独りごちていたら、そのカラスが次第に高度を緩め、距離を縮めて目の前の欄干に降り立った。

さすがに驚いたが、襲われるかもしれないという恐怖はまったく感じなかった。まさに心を読まれたようだった。しかしそうだったとして、ここまで忠実に何処の馬の骨ともしれない人間の期待に応えてくれるものだろうか。いや、これは試されているのではないか。カラスは頭が良く、ヒトの幼児〜小児くらいの知能は備えているらしい。悪ガキよろしく、からかわれているのかもしれないが。こうして目前に佇むカラス氏、こちらを凝視するでもなく、威嚇するでもなく、視線はそっぽを向いてはいるのだが、動き回ることもなく静かに欄干の上に止まったままだ。

「撮りたいんだろう?黙っててやるから撮るなら撮れよ」という相手の心の声が聞こえてくる。いやこちらがそう解釈して無理やり聴き取ろうとしているだけなのだが。あまりに至近距離なので、こちらが身動きした途端威嚇されやしないかと、そっと、そっと、レンズを向けてファインダーを覗いてみる。視界に捉えたスマートな漆黒は、変わらずそっぽを向きつつも堂々と佇んでいる。何度かシャッターを切り、構え直して再び切る。その間まったく動じることなく、こちらに付き合ってもらった形になった。そろそろいいかな、とカメラを持つ手を下ろすと、それが合図のように飛び立っていった。

時間にして1〜2分程度の出来事だったが、とても長くも感じた。好きとはいえ野鳥なので触れ合うことはしないものの、営巣期を除けばすぐそばを通りがかっても害はなく、頭も良く人にも通じる愛らしさもあるため怖さを覚えたことはない。しかしここまで人の心を読むようにやってきて大人しくそこに居続けてくれたとなると、微笑ましいを通り越して多少怖くも感じたが……これは通じ合ったと思ってもよいのだろうか。いや、狐や狸のようにつままれたというか、からかわれたと思っておくべきだろうか。

ちなみに、こんな自分でもうっかり営巣の近くを通ると低空飛行されたり、巣立ち時期のツガイと仔の場に出くわした時は(餌取りの訓練でもしていたのか)、親ガラスに威嚇されたこともあったり、また電柱に営巣されると厄介でもあるので絶対無害というつもりもないが、ゴミを漁るというのもスカベンジャーとしての役割も果たしているということでも興味深く、観察していると面白い。もっとも身近でその気になればいつでも研究材料に成りえる野鳥なのだが、世間ではありふれ過ぎていて存在を無視されがちな迷惑鳥という立ち位置になるのだろうか。

時間が許せば一日中カラスの観察をしていたいくらいだ。そしてあの時のようにまた通じ合える(と勝手に思った)ことがあったら、それはどんな現象なのか、はたまた何らかの習性なのか。

この世の謎と不思議は案外近くに点々としているらしい。

@yurutan
空想と現実のあいだには いつも冷たい雨がふる  yurutan.net