昨年ラッコを見たくて鳥羽水族館へ旅行した。先の記事にあるように『ぼのぼの』にハマってラッコのことも気になり、動画を見てそちらの可愛さにもすっかりやられてしまったという次第だが、現在日本では飼育下のラッコはわずか3頭しかいないとのことで、その内2頭が飼育されている鳥羽水族館へ行った。1980年代に日本での飼育が始まり、1990年代には国内で100頭以上を数える程になりピークを迎えたが、環境の変化に弱くナイーブな性質で、飼育下の繁殖も難しいためその後減り続け、今残っている3頭ともそれなりに高齢で繁殖も見込めない(内2頭は兄妹ラッコである)のと、その間締結されたワシントン条約によりラッコの輸入は禁止されたため、今の3頭が日本での飼育の最後となる見込みだそうだ。4〜5月は鳥羽水族館のキラちゃんとメイちゃんの誕生月だが、その誕生日イベントもライブ配信を行っており、アーカイブを見たりと楽しませてもらった。もはや自分の誕生日よりラッコの誕生日の方が大切になりつつある。水族館でラッコを愛でるのは期限付きの趣味だからである。水族館側もそれを見越してかYouTubeでラッコ水槽の24時間ライブ配信を始めたが、それに呼応するかのごとく空き時間にチラ見したり眺めてしまう始末である。個人的には現在日本にいる3頭のラッコには、末永く健やかに幸せに生きて欲しい。なんとかして新しい個体を…という望みは持っていない(水族館側は立場上打開策を見出したい気持ちはあるだろうが)。ちなみに野生のラッコはというと、北海道の霧多布で近年よく見られるようだが、双眼鏡や望遠レンズがないと姿を捉えるのが難しいそうだ。野生とは距離を保ちたい気持ちもあるので、今のところ積極的に見に行く気は無い。近郊まで行くことがあれば立ち寄ってみるかもしれないが。
これは余談で、ラッコの激減理由をオスの「草食化」としていた記事も見たが、(少なくとも日本の)飼育下では繁殖に適した広さや環境を提供するのが難しいからではないだろうか。過去の資料や動画を見た限りでは、メスを見ると果敢に攻めに行っているし(メイちゃんにもかつてはオスのパートナーがおり、鼻のキズ跡は交尾時のもの(ラッコのオスはメスの鼻に噛み付いて体勢を維持する))、それなりの繁殖行動はあったものの、中には近親交配もあったり、それを避けるため雌雄双方適したパートナーを充てるべく他の館へ移そうとしても、輸送中のストレスや環境の変化に弱く死に至ることすらあるため、その辺の調整が上手く行かなかったのもあるだろうと思う。少子化や繁殖行動の衰退の要因を安易に「草食化」と言いたがる今の風潮に疑問を感じる。そう断じれば思考せずに済み楽だからだろうが。昨今飛び込んでくる家庭内の犯罪や不祥事などの情報を見ていると昏い考えになってしまうが、ヒトの環境も似たようなものかもしれない。
期限付きの趣味といえば、自分にはもう一つある。廃墟や遺構の探索である。朽ちていく建造物に魅力を覚える方は多いだろう。これらの物件もその状態で永遠に残ってくれるわけではない。いつかは倒壊するだろうし、あるいはその危険のために人為的に解体される可能性もある。はたまた台風や積雪、あるいは地震で崩壊ということもあるだろう。それを思えば間違いなく楽しむ期間は限られている。古建築や遺構なら保存の道もあるにはあるが、全てをとなると支払う税金や維持費を考えると現実的ではない。敷地内や屋内の見物になると法的にグレーもしくはブラックになるので褒められた趣味ではないが(許可取りも事故時の責任の所在が何処に行くかを考えると慎重にするべきだと思う)、見られるうちに見られるところだけでも見ておいた方がよい、というタイプの趣味である。末永く楽しめる健康的な性質のものには振り向かず、先行きが明るくないものに惹かれる星の下に育ってしまったのかとつくづくため息が出る。
幸いと言っていいのかはわからないが、廃墟遺構の方は自分としては十分見て回れたというのもあって、熱は落ち着いた。近年はこの趣味も市民権を得てきているのか、遺産登録されたり団体活動が活発になってきた。後に続く同士が楽しみやすくなるのは良いことだが、その分そこに拘る理由が無くなったというのもある。あと、廃な場所は静かに愛でたいという我儘もあり、最近はコミュニティからも距離を置いている。自分の廃墟趣味はこうして静かに幕を閉じることが出来そうである。そしてラッコは健やかに長生きして欲しい。